い の り ね が う ― Side.K ―



つまらない授業をさぼって、屋上で一人、昼寝をする。それが日常。
その日常に一つの変化が訪れた。

三ヶ月前に現れた、《転校生》。

人目を惹く美貌を携え、人のいい笑顔を湛え、誰にでも優しく接する。非の打ち所のない性格。
成績も優秀、運動もできて腕もたつ。
まさに、完璧。
そのまま普通の人生を歩んでいけばいいものを、何を考えているのか《宝探し屋》なんて職業を(本人は《宝探し屋》じゃないと言っているが)している。

手すりに寄りかかって隣に立つ《転校生》、緋勇龍麻を見る。
すると、制服から何やら箱を取り出す。よく見れば、それは煙草だった。
慣れた動作で、その中から一本を取りだし、同じく取り出したライターで火をつける。
途端に広がるバニラの香り。出所は龍麻の吸う煙草からだと分かる。

「…お前、煙草吸うのか?」
「まぁね」

紫煙をくゆらせながら、龍麻は答える。しかし、その視線は俺ではなくフェンスの向こうに向けられる。

「ふぅん。真面目そうにみえんのにな」
「…そんなに真面目じゃないですよ、俺は」

くすぐったいような笑いを溢しながら、龍麻は再び煙草を口に運ぶ。
そんな他愛もない仕草も、人の目を惹き付ける。
本人にその自覚は全くないらしい。そのせいで、こっちが冷や冷やする事も多い。

「…変わった匂いがするな、ソレ」
「そぉ?…あーでも、コレ吸ってる人は確かに珍しいかも」

あんまりいないよ、きっと。
そういって笑った顔が、今まで見たことのない顔だった。泣きそうでそれを堪えてる顔。

「…何でソレ吸ってんだ?」

自然と口に出ていた。
自分がそれを尋ねられていたら、絶対に答えない疑問。
それを、目の前の人物に問いかけていた。

「あら、今日の皆守クンは随分とお喋りですね?」

気を損ねた風も見せず、普段見せる人懐こい笑みを見せた。

「……」
「今度はダンマリ?いいけどね、それでも」

手にした煙草を、龍麻は自分の目線のところまで持ち上げる。
ふわり、と煙が揺れる。
その様を、龍麻は愛しむような眼で見つめている。
愛しむ誰かがソコにいるのだ、とでも言うように穏やかな眼差しをしている。


「過去の…匂い、かなぁ」


それ以上聞くな、と俺の中で警報が鳴る。
それ以上喋るな、その言葉が出ない。口が渇いて、喋れない。


「大切な人の匂い、というか」


「たとえ疑似的なものでも、その匂いから離れたくない」


「ずっとこの匂いに抱かれていたい」


「そんな感じ」


言い終えると、それをゆっくりとした動作で口に運ぶ。
ふぅ、と煙を吐き出すと、龍麻の視線が俺に向けられる。
俺は何も言えずに、ただ龍麻を凝視するだけだ。
龍麻の黒い瞳が、どこまでも吸い込まれそうな瞳が、俺を見つめる。

まるで、何かを探るように。
いや、探る必要などないのかもしれない――

その瞳は、既に全てを知っている――そう語っているのかもしれない。

そして、その瞳は問う。
“お前の闇はどれほど深いのか、見せてみろ”と。


「どっかの誰かサンと同じ」


そうして龍麻は、絶句するほど綺麗な笑みを浮かべた。
何事もなかったかのように、手すりの向こうに視線を戻す。

身動きの取れなくなった俺を、放置して。
彼は、過去の誰かとの逢瀬を続ける。


投げられかけた微笑み。
龍麻は、《生徒会執行委員》を慈愛に満ちた微笑みと優しく力強い手を差し伸べて救っていく。
救われた彼らは、龍麻の微笑みに癒されているのだろう。
だが、罪と過去に囚われ苦しむ俺にとっては、まるで致命傷を与えられるような刃にも似た微笑み。


俺はその手を、掴んでいいのだろうか?癒されていいのだろうか?




side:T



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皆守視点でお送りしました。
先に皆守の方を書き始めたのですが……突発だったので意味不明ですね(T_T)
反転で何かがでたりしますよ。