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い の り ね が う ― Side.T ―
授業に真面目に出るのも億劫で、サボって屋上に出た。天気は快晴。
季節的にはそろそろ寒くなってくる頃なのだが、今日の日差しは暖かかった。
こういう天気には猫もいい気分で昼寝できるだろう。ぐるりと屋上に視界を廻らせて、おそらく此処に来ているであろう人物を探す。
いつもの定位置で、気持ち良さそうに微睡んでいる「猫」が一匹。
屋上の主・皆守甲太郎。
「教室にいないと思ったら、此処にいたのか」
声をかけるが、返事も返さない。
ちらっとこちらの姿を一瞥すると、再び眼を閉じて眠りに入ったようだ。
つれなくすると近寄って、相手をしようとすれば離れていく。本当に猫みたいな奴だな、と思う。
可愛いなあ、と笑いながら手すりに近付き寄りかかる。その呟きが聞こえたのか、皆守の気が不機嫌になったのを感じた。
手すりに寄りかかり、そこから見える景色を見つめる。
閉鎖された学校。遺跡。《生徒会》。執行委員。
何かに囚われ、そしてそこから抜け出せない状況。
それは、『宿星』に似ている。
自分も『宿星』からは逃れられない。最も、逃げるつもりはないが…。
そして、同じく『宿星』に囚われ死んでいった"彼"を思い出す。
彼、九角天童。
彼を失ってから、その名を声にしていない。
声にだして呼んだら、偉そうにしながらひょっこりと現れるような気がするから。
そんなことはありえない、と分かっている。
それでも、会いたい気持ちが押えられなくなりそうになるから。
胸ポケットに手をやり、煙草を取り出す。
濃い赤色の紙パッケージに英語の銘柄。彼の吸っていたものと、同じもの。
「…お前、煙草吸うのか?」
後ろから皆守に声をかけられた。いつの間にか起きていたらしい。
その声色には、驚きの色が込められている。
「まぁね」
少し感傷的になっていた自分に気付かれないように、笑顔を向ける。
「ふぅん。真面目そうにみえんのにな」
「…そんなに真面目じゃないですよ、俺は」
吸い込むと、チェリーの香りが体を包み込む。
目を閉じれば、彼が傍にいるような気分になった。
「…変わった匂いがするな、ソレ」
「そぉ?…あーでも、コレ吸ってる人は確かに珍しいかも」
皆守を見れば、物珍しそうな顔をして見ている。
確か、自分も始めてこの煙草を見たとき、同じような顔をしたような気がする。
そういえば。
わざわざ外国産の煙草なんか吸わなきゃいいのに、と「彼」に尋ねたことがあった。
そうしたら「彼」は何て答えたか、思い出す。
苦笑したまま、「好きだから」と答えた。
キスしたときに感じる、チェリーの香り。甘い味。
それが結構好きだった。
可愛らしい匂いに、あんたのガラじゃないよと笑ってやったのを思い出す。
唇を舌で舐めると、フィルターについていた甘い味がした。
過去にトリップしていると自分を、皆守の声が現実へと引き戻す。
「…何でソレ吸ってんだ?」
「あら、今日の皆守クンは随分とお喋りですね?」
「………………」
「今度はダンマリ?いいけどね、それでも」
皆守が人に興味を持つ事は少ない。
それは周りの反応を見て知った事だ。クラスの人の話によれば、皆守が誰かと一緒にいることが珍しい…というか初めての事らしい。
おそらく――彼も何かを抱えている。
《執行委員》たちと同じように。
そんな気配を今まで何度も感じてはいた。あえて、それを聞くような事はしなかったが。
「過去の…匂い、かなぁ」
ぽつり、と呟いた。
こういう答えは、皆守にとって辛いものかもしれない。
「大切な人の匂い、というか」
でも、少しくらい前に進まなくては。
このままここで立ち止まっていて、良い訳がないのだから。
時には荒治療も必要…だろう。
「たとえ疑似的なものでも、その匂いから離れたくない」
皆守の姿を盗み見ると、やはり辛そうな顔をしている。それを知りながら、言葉を続けた。
「ずっとこの匂いに抱かれていたい」
煙が空へと吸い込まれていく。
じっとその先を眺める。
「そんな感じ」
辺りに漂う香りに、傍に「彼」が立っているような感覚に陥る。
風が吹けば、すぐに消えてしまう感覚だけれども、縋らずにはいられない。
女々しいなぁ…と自分で自分を笑いたくなる。
「どっかの誰かサンと同じ」
ふわりと、皆守に笑顔を向ける。
皆守の表情から、彼に何らかのダメージを与えたことを悟った。それを確認して、視線を空に戻す。
同類だな、俺たち。
偉そうな事をいってる俺だって、結局は…「彼」に囚われ続けてるんだから。
それでも、俺は前に進むけどね。
皆守は、どうする……?
side:K
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一番始めに書いた九龍SS。発掘いたしました。
もう、魔人を知らない人には通じない話に……(汗)
こういう微妙な関係が好きなんです。
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