ジャムの


木々の葉がほとんど落ちてしまった、初冬の日曜日。
学校が休みの今日、九龍は探索には出かけず寮の自室で過ごしている。
赤と黒と白の3色が微妙に違う幅のボーダーニット、ネイビーのダメージ加工仕様のジーンズ。休日なのでリラックスした服装をした九龍は、さらにワインレッドのエプロンをつけて、自室のキッチンに立っていた。

英語の歌を口ずさみながら、右手に果物ナイフを持って、しゅるしゅると林檎の皮を器用に剥く。
細く長く剥かれた皮は、こんもりと小さな山を作り、まな板の上には皮を剥かれた林檎が3個ほど。
4個目の林檎を剥き終わると、今度はそれを1センチ角に切り始める。
鮮やかな包丁さばきで、九龍は全ての林檎を切っていく。
とんとん、というリズミカルな音が、部屋に響いていた。

「相変わらず、九龍は器用だね」

そんな九龍の後ろ姿を、皆守と龍麻は座って眺めていた。
ローテーブルに肘をついて眺める龍麻の目の前には、白い皿の上に乗った赤い耳をしたうさぎ。

「……………………、りんごうさぎ」
「可愛いだろ? 俺が頼んだ」

そう言って、龍麻はうさぎを一匹抓むと口に運んだ。
しゃり、と良い音を立てて、龍麻はそれを咀嚼する。
皆守も一匹、うさぎを抓むと全体をまじまじと見て、ひとつため息をついた。

「わざわざ、うさぎにする必要があるのか?」
「見た目が可愛い」

猫みたいに目を細めて嬉しそうに龍麻が笑うので、皆守は何も言えなかった。
抓んだ林檎のうさぎを頭から噛り付く。
形はどうであれ、味はやっぱり林檎だった。すこし酸っぱい。

「龍麻サーン、味見してくれます?」
「喜んで」

キッチンスペースにいる九龍は、どうやら手が離せないらしく、顔をみせず声だけで龍麻を呼んだ。
呼ばれた龍麻は、二つ返事でそれを了承し、無駄のない動きで立ちあがってキッチンへと消えて行った。

3人で何かを作って食べる時、味見役として選ばれるのは、ほとんどが龍麻だった。
皆守がカレーを作っている時に、味見を頼むのも龍麻だ。
料理は一切しないのだが、舌が肥えているし、遠慮なく美味い不味いを言ってくるので、味見役としては適した人間だ。
一番の理由としては、龍麻の好みに合うものを作りたいと思っているからだろう。
皆守にとって、九龍の好みなど二の次だ(だからこそ、カレーに彼の嫌いな人参をいつも多めにいれている)。
九龍もまた同じ事を考えているのだろう。そういう点で、2人は非常によく似ていた。



キッチンに入って、ガスコンロの前に立っている九龍の側に行く。
鍋の中には、くつくつと煮込まれている林檎のジャム。
九龍が銀のスプーンでジャムをすくって、龍麻の口元まで運んだ。

「……自分で食べれるけど?」
「食べさせてあげたいんですって。ハイ、口開けて下さい」
「…………あ」

仕方なく、龍麻は口を開けた。
薄く開いた唇にスプーンを差し込んであげれば、龍麻が舌でジャムを舐め取る。

「どうッスか?」
「うん。丁度良い」
「良かった。じゃあ俺も味見、」

素早い動作で九龍は龍麻の顎を掴み、くいっと上向かせる。
油断していたので、避けることができなかった。
しかも、あまりに自然にやられたので、龍麻は驚いて動けないでいた。
九龍は角度を変えて顔を近付けてくる。
おそらく、このままいけば可愛らしいキスだけではすまされないだろう。

あと数センチで触れ合う、唇と唇。
それを止めたのは、カチリ、という金属音。

「その手を離せ、セクハラハンター」
「チッ、テメェはあっちで林檎のうさぎちゃんと仲良くやってろよ。むっつりアロマ。っつーか、それ俺の銃」
「……飽きないねぇ、二人とも」

部屋に漂う甘い甘い林檎の香り。
鍋の中には、黄金色のジャム。
今の貴方の唇と同じ味。