月の下で出会ったのは、
Amuro+Habaki



遺跡内の湿った空気に慣れた体には、外の空気は新鮮に感じる。
たとえ、汚染にまみれた首都圏の空気でも、今の自分には十分だった。
暗視ゴーグルを額に押し上げて、深紅に輝く瞳で九龍は夜空を見上げた。

今日の月は、細く笑う三日月だ。星ひとつ見えない。
だらりと垂れ下がるだけだった左手が瞬時に動き、ホルダーからシルバーボディのハンドガンを取り出して、背後から近付く“敵”に付き付けた。
カチ、という硬質な音が静寂の支配する《墓地》に響く。

「うわーお……宇宙刑事じゃん。こんばんは」

“敵”は降参の意思を込めて両手を挙げていた。
九龍は片方の口角だけを上げて笑い、突き付けた銃口を鴉室の額にぐりぐりと押し付ける。
満面の笑みを浮かべて、とても楽しそうだ。

「今日は一人かい? 珍しいね……というか、さっさとコレ、どかしてくれないかな?」

額から銃口を外し、ポケットの中から取り出したハンカチで綺麗にそれを拭く。
ごしごしと力一杯ふきとる姿に、俺ってそんなに汚いもの?と鴉室はちょっと落ち込んだ。
気が済むまで拭き終わっても、九龍はそれをホルダーに戻さず左手に持っていた。
まだ鴉室に対して完全に警戒を解いていないらしい。新人といえども、九龍はれっきとした《宝探し屋》だ。目の前に立つ鴉室が“普通”の立場の人間じゃないことに気付いている。
さすが、と張り付けた笑顔の裏で鴉室は感心していた。

「珍しいことでもねぇよ。2日に1回は一人で潜ってる」
「それは意外だったなぁ。龍麻君は知ってるのかい?」
「何も言わないけど、気付いてると思う。それに、ついてきて欲しくないって分かってるみたいだし」
「へぇ……一人になって何するんだい?」

ほんの軽い気持ちで言った鴉室の言葉に、九龍が過敏に反応した。
いつも感情を素直に表現する顔からは、表情の一切が取り払われ、虚ろな瞳はどこを見ているのか分からない。
無防備に立っているように見えるのに、全く隙がない。
少しでも鴉室が動いたら、今の九龍は躊躇いなく、左手に持ったハンドガンで撃つだろう。

まるで、機械だ。まるで、人形だ。
これが《ロゼッタ協会》の誇る――――脳裏を過ったのは、数日前に届いた調査報告書。
背中を生温い汗がつたって落ち、鴉室はごくりと生唾を飲んだ。

感情の抜け落ちた彼は、ゆっくりと唇の端を持ち上げて笑顔を作った。
それが余計に見ている者の恐怖を煽る。
いつにも増して、九龍の紅い瞳が鮮やかに光っていた。


「………………、ころしまくるんだよ。“同類”を、な」


三日月の輝く夜。もう一人の葉佩九龍に、出会った。