張り裂けるを聴くがいい


今まで四六時中一緒にいた奴らだったから、躊躇った。辛かった。
痛むはずのない胸が、痛んだ。好んでいたはずのラベンダーの匂いに、吐き気がした。

ずっと隠していた正体を明かした。全ての原因はそれだ。

九龍は驚いていた。龍麻は、変わらない表情だった。
もしかしたら、龍麻は気付いていたのかもしれない。
眉一つ、指先一つ動かさず、彼は俺を見据えていた。
九龍は俯いていた。顔が影になって見えない。肩が、震えていた。

「ふふふっ……だーかーら、俺はお前が嫌いなんだよ。皆守甲太郎」

顔が、ゆっくりとした動きで上げられていく。
暗視ゴーグルを外した所為で、九龍の独特の瞳が露わになっていた。
赤い瞳。ゆらめく炎の色を嵌め込んだように輝く瞳。けれど、秘める温度は絶対零度。

「いつまでもウジウジ悩みやがって。躊躇ってんなら、やるんじゃねぇよ」

歪んだ唇が、腹立たしかった。
それ以上に、九龍の口調が腹立たしかった。
馬鹿にするような、それ。

「迷ってる暇なんて、俺にはねぇからなぁ……羨ましいかもなぁ、」

べ、と舌を出してくる。

「なーんて、嘘だけど」

射殺さんばかりに睨み付けたけれど、九龍はそれを難無く受けとめる。
片手に持ったM92FMAYAの銃口が向けられる。
カチッという金属音が、小さいはずの音なのに、やけに耳に響いた。


「殺してやるよ、皆守甲太郎。それがお前の望みなら」


九龍の唇が、これでもかというくらいに笑みの形に歪む。
何の躊躇いも無く向けられた銃口。
普段は雄弁に愛を語る口が、殺意と敵意と悪意のこもった言葉を紡ぐ。

銀髪で赤い眼をした美しい悪魔が此処にいた。

「お前を殺して、セイトカイチョウも殺して、この、」

言葉を切って、九龍が天を仰ぐ。
広い部屋の中を見渡して、視線を元に戻す。

「窮屈で胡散臭くて呼吸困難、窒息死しそうな《遺跡》もぶっ壊して」


「俺はまた飼い犬に戻るんだ」


嘲るように鼻で笑った。
それはきっと、九龍自身に向けられたものだと、何故か理解できた。

泣きそうな笑みだった。
温度の無かった瞳に熱が戻った気がした。
一瞬だけ見えたそれは、すぐに胡散臭い笑みの下に隠れた。
後ろで静観していた龍麻の表情が、ほんの少しだけ動いて、誰かに駆け寄ろうと足が浮いた( 九龍に駆け寄ろうとしたのか、それとも俺に駆け寄ろうとしたのか。こんな時だが、気になってしまう。お前にとって、俺とコイツ、どっちが大切なんだ? )



「お前とつるんでた時、俺は自由になれそうな気がしたよ」



幻想だったけどな。


自嘲気味に呟かれた言葉は、地を蹴る足音に消えた。



( これもまた、一つの終幕 )