赤いを持って墓参り


龍麻の腕には、赤い花が抱えられていた。
花束とまではいかないが、片手で数えられるくらいの本数の赤い花だった。
黒の学ランにその赤い花はよく映え、花に添えられた白い指先がより妖艶に見えた。

風が強かった。屋上だから、余計にだ。
龍麻は屋上が好きだった。皆守以上に、龍麻はこの場所を好んだ。
この学校で空に一番近い場所だからと前に言っていたのを思い出す。
開放感が、好きなのだとも。

「墓、ないから。これが墓参りっていうのも、可笑しいけど」

くしゃり、と手で花を潰した。
ばらばらになった花弁が風に乗ってどこかへと飛んで行く。

「長期休業以外、外に出たら駄目みたいだしね」

一つ、また一つと花を潰しては、花弁を風に乗せて飛ばす。
風が髪を乱しても、龍麻は気にもとめずに、その行為を繰り返していた。

そして、最後の花弁が風に舞った。

手の中に残った一枚の花弁に気付いて、龍麻はそれに口付けをした。
閉じられていく瞳。長い睫毛が影を作る様子が、スローモーションで見えた。
うっすらと開かれた唇が、しっとり水気を含んだ赤い花弁に近付く。
今まで見たことがない、ヤバイくらいに色っぽい表情。
薄い桜色の唇が動いて何かを呟いた。
赤い花弁が声を受けて、微かに震える。

「    」

風に消えて、その言葉は皆守の耳に届かなかった。
けれど、龍麻が泣きそうに愛しそうに笑うから、何を言ったかは大体想像できた。

濃厚に香る花の匂いに、吐き気がした。
まだ見ぬ、出会う機会もないであろう誰かに、俺はどうしようもなく嫉妬したのだ。



( 俺以外に、愛を囁くのは止めてくれ )