|
一歩先行くアイツ
「Good morning! とりっち」
「あ……葉佩君」
優雅に重役出勤を決め込んだ九龍が取手と出会ったのは、音楽室へ行く途中。
片手に楽譜を持ち、これから音楽室へ行こうとしているところだった。
「他人行儀はやめよぅぜ、とりっち。九龍でも九ちゃんでも、気軽に呼んじゃって」
「え、あ、じゃあ……はっちゃん」
「そうそう、俺ととりっちの仲じゃん。また今日もバスケ部乱入するからヨロシク」
「うん、楽しみに待ってるよ」
自分よりも高い位置にある肩に、ぽんと手をかけると、九龍が耳打ちするように声をひそめた。
「……ところで。是非とも、とりっちに聞きたいことがあったんだよ」
その声の低さに、取手が怯えながら九龍の顔を見る。
ぎらり、と瞬く獲物を爪に引っ掛けたような捕食者の瞳。
葉佩九龍が自分たちとは全く違う世界に生きているのだ、ということを感じさせる、それ。
一体どんなことを聞かれるのだろうか。ちょっと怯えながらも、真剣な顔をしている九龍をじっと見る。
「…………な、なんだい?」
「あのさ……」
「龍麻サンが時々ピアノ弾いてるって、マジ?」
大好きなおもちゃを見付けた時みたいな、キラキラした目。
さっきまでの冷たい空気は一変し、今、取手の隣にいるのは普通の高校生だ。
くるくると変わる九龍の表情に、取手はついていけなくて戸惑ってしまう。
「……へ? ……あ、うん。時々だけど、弾いてるみたいだね。とても綺麗な音だよ」
優しい顔をして笑った取手に、九龍も嬉しくなる。
「うわ、それマジ?それはもう絶対聞かなきゃじゃん!」
「でも、頼んでもなかなか弾いてくれないけどね。気が向いた時しか弾かないみたいなんだ」
「かなりレアなんだねぇ、龍麻サンの生ピアノ。でも諦めねぇ!」
拳を掲げて空に誓う九龍。
「ふふ、はっちゃんは本当に龍麻君の事が大好きなんだね」
「当たり前。葉佩九龍、一世一代の恋だからね。惜しみなく愛を捧げる所存です」
ふっと笑った顔は、ハンターのものでも高校生のものでもなく。
一人の男としての、カッコイイ笑顔。
自分の力を武器に思いのままに飛びまわる、晴れた空を翔ける鳥のようだと思う。
その姿は羨ましくもあり、好ましくもある。
「ちなみに、聞ける可能性が高い時間帯とかってある?」
「……うーん。最近は、皆守君に強請られて弾くことが多いって言ってたね」
顎に手を当てて考え込むようにして言い終えた時、九龍の雰囲気がずん、と暗くなった。
「…………………………………」
沈黙を続ける九龍に、何か良くないことを言ってしまったのかと不安になる取手。
おたおたとして立ち尽くしていたが、意を決して声をかける。
「は、はっちゃん?」
「ッ、あ、の、アロマ野郎がぁ!!」
所変わって、音楽室。
ピアノの前の椅子に腰掛け、龍麻の指先が音楽を奏でる。
床に座り込んで眠っていた皆守の目が開いたのを見て、その指の動きが止まった。
「どうした?皆守」
「いや、なんかムカツク叫び声が聞こえただけだ」
「ふぅん」
座っていた場所から移動した皆守は、今度は龍麻の座る椅子の側に座る。
椅子に寄りかかって頭を後ろに傾ければ、後頭部に当たるのは柔らかい肉の感触。
「龍麻。今の曲、もう一回」
目を閉じて、さっきまで弾いていた曲をもう一度強請る。
猫みたい、と呟かれたのが聞こえた。
抗議の意味を込めて後頭部で、龍麻の太腿を攻撃。
ふふ、と笑う声が聞こえて。後を追うように、軽やかな音色が響いた。
「お望みとあれば。好きだね、この曲」
「別に、お前が弾くのが好きなだけだ」
ラブラブ皆黄が書きたかった(見事撃沈)
A組の仲良しコンビです、取手と九龍。
2005.10.20 加筆修正