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出会って、恋に落ちる
エジプト、カイロ。
太陽は空の真ん中に位置し、人でごったがえす市内。
案内人との待ち合わせ場所を確認しようとH.A.N.Tを取り出した時、敵が現れた。
いきなり銃で撃ってきた相手に倣って、一般市民の前で銃撃戦をするのは気がひける。
隠し持っていた銃に伸ばしていた手を引っ込めて、踵を返す。
H.A.N.Tを鞄に仕舞う時間すら惜しいので、手に持ったまま九龍は走り出した。
後から追いかけてくるのは、足音から察するに5人程度。
これなら撒けるだろうと思い、九龍は足を速めた。
人気の少ない路地まで誘い込むと、銃をとろうと懐に手を忍び込ませる。
が、そっちに気を取られて進行方向に人が立っているのに九龍は気付かなかった。
相手も向かってくる九龍に気付かなかったらしく、二人は避けることもできず、まともにぶつかった。
銃に気を取られていた九龍の手から《宝探し屋》の重要アイテムともいえるH.A.N.Tが落ちる。
衝撃で尻餅をつく九龍、相手も転んでしまったようで地に座り込んでいる。
俯いていたことで長い黒髪が顔を隠しているので、性別は分からない。
「――――ッ!?」
「チッ、どこに目ェつけて……」
フェミニストな九龍だが、今はそんな事を言っていられない。
ぶつかった相手が男だろうと女だろうと、今は一刻を争う時だ。
自然と喧嘩腰の口振りになるのも仕方がない。射殺すように、九龍の紅い瞳が相手を睨む。
「そっちの方こそ、いきなりぶつかってきて謝罪もなしかい?」
すっと音もなく立ちあがった相手は、エジプトの強い日差しとは不釣合いなほど透き通るような乳白色の肌。
白いシャツからは、細い腕が惜しげもなく晒されている。
長い黒髪から覗く顔は、世界を股にかける九龍ですらめぐり合ったことのない、美貌。
眩しい光の中で、その姿は蜃気楼の如く消えてしまいそうで。
絶句。
やばい、これが一目ぼれという奴か。
「ちょっと、聞いてる?」
転んだ時についた土を払うと、男は座ったままでいる九龍に視線を向けた。
君臨する者の目だ、と九龍は思った。
彼の放つ圧倒的な何か。気を抜いたら飲み込まれるという恐怖心。
こういうのを至高の存在というのだろうか。美しさと強さを兼ね合わせた、最上のモノ。
絶対に入手不可能といわれる《秘宝》に出会った瞬間のようなものを、九龍は感じていた。
自分のことをじっと見上げているだけで、反応がない九龍を見て、転んだ拍子にどこか怪我でもしたのかと見つめられている男は心配になる。
屈み込んで九龍の顔に手を触れようとした時、九龍が走ってきた方から複数の男の声がした。
「―――!……、……!」
「………!」
「ヤバッ!」
男たちが追い付いてきたらしいが、ここで捕まるわけにはいかない。
九龍は慌てて立ちあがると、名残惜しい気持ちを残しつつ、目の前に立つ男の横をすり抜けて走り出した。
取り残された男・緋勇龍麻は、その足の早さに呆気にとられる。
「……なんなんだ、一体。って、コレは落し物か?」
追いかけてきた男たちを人目につかない場所まで連れ込むと、九龍は持ち前の腕っ節で殴り倒した。
足元には5,6人の男たちが倒れ、それらに囲まれながら九龍はしゃがんで鞄を漁る。
とりあえず、待ち合わせ場所を確認しようとH.A.N.Tを探してながら。
思い出すのは先ほど会った、フォーリンラブな相手。
今思い出しても、その美しさが瞼の裏によみがえる。
吸い込まれるような黒い瞳が、宝石のように煌いていた。
呼吸する《宝》。見てくれだけじゃなく、彼の内面から滲み出る気高さにも美しさを感じた。
まさに、一生で一度、出会えるか否かの奇跡。
「あー、名前だけでも聞くんだったー………って、H.A.N.Tがねぇし!!」
この事実が知れれば《ロゼッタ協会》の事務局の人に怒られる、もしくは呆れられること必死。
はぁぁ、と大きなため息をつくと、九龍はお前等のせいだという意味を込めて、倒れている男にもう一発蹴りを食らわした。
出会い編を書いたらこんな感じかな、と。
2005.8.31 加筆修正