密会と答え



「で、何の用なんですか? うちゅうたんていサン」

ジーンズに黒のコート(中に何を着ているかは、コートに隠れて不明)、首に灰色のマフラー、有名ブランドのシューズを履いた葉佩九龍は、そこに立っている分には普通の高校生だ。
けれども、コートの下にはホルダーに仕舞ったM92FMAYA。
特製加工が施されたコートの内側には、小型のナイフが片手で数えられる程度に装備されている。
傍目から見れば普通の高校生、けれどその本性は、"闇"に生きる者。

「冷たいねぇ。折角の深夜デートだっていうのに」

そんな九龍の前に立つ男もまた、普通ではない男だった。
ジャケットのバックプリントには派手な女性、派手な赤色のシャツ、サングラス。
およそ、高校の敷地内にいるには、似つかわしくない出で立ちだ。

"普通"じゃない二人がいるのは、寮の裏手にある《墓地》の隅。
木々に隠れるような場所に待ち合わせを指定されたので、寮の窓からでも二人の姿を確認することはできない。
煌煌と照る月明かりで視界は良好(二人とも職業柄なのか夜目が効く)。
視界は良好でも、寒さには耐えられない。
肩を竦めて、一度ぶるりと震えると、九龍は苛ついたように言った。

「折角ですけど、間に合ってますので」
「…………、それは、あの不健康優良児の事かい?」
「どう思おうと勝手ですが、恋人の悪口を笑って流すほど、俺はお人よしじゃないです」
「これは悪口じゃあないだろう」
「アナタが言うと、そう聞こえるんです」

元々、寒さに強いわけではない九龍のイライラは頂点に達しようとしていた。
とにかく、さっさと話を済ませたいと思っているのが顔に出たのか、鴉室はようやく、待ち合わせの目的を語り出した。

「ふぅん、ま、とにかく、だ。俺は君と取引がしたい」
「何の取引です?」

普段の馬鹿面を引き下げて、真面目な顔つきになった鴉室に、九龍の顔も自然と引き締まる。
鴉室が見せたのは、《M+M機関》の《異端審問官》としての顔。
そして九龍は、《ロゼッタ協会》の《宝探し屋》としての顔。
どちらも、二人が持つ裏の顔であり、本当の姿だ。
今から持ち出される取引は、裏の二人で交わされるもの。

「君は俺にあの《遺跡》内部の情報を渡す、俺は君にこの《學園》の情報を渡す」
「自分で潜ったらどうっすか? いちお、アナタもそういう仕事してるんでしょ?」
「俺は頭脳戦向きで、体力勝負は勘弁なの。どう? いい取引だと思うけど?」
「残念ですが。俺もそれなりに《生徒》として、情報は掴んでいるんで。必要ありません」

ふぅ、と九龍が溜息をついた。
「取引は決裂だ」ということを示すために。
けれども、鴉室は諦めていないようで、口には余裕の笑みが浮かんでいる。
九龍の興味を引く決定打が、まだ手の内にあるとでもいうかのようだ。
訝しげに眉を顰めて見る九龍に、ニヤリと笑い返し、わざとゆっくりとした動きで鴉室は口を開いた。

「《生徒会》こともかい?」

九龍は、何も言い返さなかった。

「生徒会長、生徒会副会長補佐、書記、会計……そして、不在の生徒会副会長。気には、」


「なりませんよ」


鴉室の言葉を途中で遮ったのは、九龍の毅然とした声だった。
躊躇いもなく言い切られた言葉に、鴉室は拍子抜けし、不思議なものを見るかのように九龍を見つめる。

「…………」
「他人の口から答えを知るのは好きじゃないんです。欲しい答えは、自分で探します」

堂々と、九龍は言い放った。
ぎゅうっと握られた拳は、彼の決意の強さを表しているようだ。

「まさか、君は」
「答えが欲しい時は、自分で答えをくれる相手を選びます」

そこで一旦、口を閉ざすと、目を伏せた。
どれ位の時間が流れただろう。1分か、1時間か、永遠か。
おそらく、一呼吸する位の短い時間なのだろうが、鴉室にはずっと長く感じられた時間だった。
目の前に立つ、新米ハンターから発せられているプレッシャーが、重く自分に圧し掛かってくる気がした。
そして、すっと開かれた九龍の瞳には、強い意思が宿っていた。


「答えて欲しい相手は、アナタじゃない」


「……………、参ったね。君は中々の、強者だ」

言いかえす言葉も、丸め込むための言葉もない。
鴉室は両手を上げて、降参のポーズを取るしかなかった。


( 普段は見せない裏の顔で、普段は言わない本音を語る )