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せなかあわせ
もうすぐで満月になる月を眺めながら、犬神は一人、家の縁側に座って酒を飲んでいた。
普段は己の中で大人しく眠っている獣の本能というヤツが、満月が近くなる度に暴れ出す。
騒ぐ血を抑えようと、夜の冷気を浴びている。けれども、口にしているのは理性を奪う酒。
一体自分は何がしたいのか、あまりにも馬鹿らしくて笑ってしまう。
ぐいっと器に入った酒を煽った時、慣れた気配を感じて、戸口に視線を移す。
家主の了承もなく、がらりと戸を開けてきた。
入り口に立っていたのは、今年の春から出入するようになった黒猫。
艶めく黒髪と白い月光のような肌、無地の着物の上に重ねて羽織るのは華やかな着物。
夜目が効く犬神には、たとえ夜中であろうとも、相手の姿がくっきりと見える。
「……何しにきた」
「それしか言うことがないんですか?貴方、私が来る度にその台詞を言ってるって知ってます?」
聞き飽きたという顔で、龍斗はずかずかと家の奥へと入っていく。
犬神もそれを強く咎めるようなことはしなかった。
側まで歩み寄って、着物の裾が肌蹴るのにも気に留めず、ぺたりと座り込む。
犬神の横に座った龍斗が、酒の入った瓶に手を伸ばした。
「手酌じゃ寂しいでしょう?私でよければお酌しますが?」
「いらん」
「ふふっ……あいかわらず、素直じゃないんですから」
龍斗は座ったまま、ずるずると犬神の背中の方に移動する。
一体何がしたいんだ?と犬神が目線だけでその姿を追った。
ぽすん、背中に衝撃。
首肯すれば、犬神の背中に寄りかかるようにして座った龍斗。
合わせた背中からは、じわじわと伝わる相手の体温。
どこか自分を優しくさせてくれる温かさを感じながら、犬神が静かに問うた。
「何か、あったのか?」
「…………会ったんです。“昔”の仲間に」
「そうか」
「ちらっと街で見かけただけなんですけどね。思わず、駆けよってしまいそうになりました」
「そうか」
「相手は私に気付きませんでした」
「そうか」
「………………さっきから、同じ言葉ばかりですよ?」
龍斗は犬神の顔をみようと、ぐっと首を捩る。
相手の方に動く気配はなく、ただ酒が注がれる音だけが聞こえた。
「慰めの言葉が欲しいなら他をあたれ」
ぴしゃりと言い放つ低い声は、背中からの振動と耳への空気の振動の二つで龍斗に届く。
首を前に戻して、崩して座る自分の足元に視線を落とす。
俯いた顔に髪がかかり、視界が少し暗くなった。
「……本当に。貴方は冷たい人だ」
龍斗は気付かれないように、床にダラリと置かれている犬神の手に指を伸ばす。
ちょん、と指の先が触れると、驚いたようにぴくりと小さく反応する犬神。
背中同士が密着しているので反応がすぐに伝わってきた。
つい笑ってしまい堪えきれなかった声が漏れる。
それが犬神の癪に障ったらしいけれど、指を振り払われることはなかった。
そのまま、犬神の手に己の手を重ね合わせる。
重ね合わせた手から伝わる温度と、背中から伝わる鼓動。
「――――冷たい人、だけど……私は此処が好きなんです。知ってました?犬神サン」
欲しい言葉をくれるわけではないけれど。
此処は、とても居心地がいい。
桔梗視点で陰→陽。何か可笑しな所があってもスルーの方向で(爆)
頭の中がごっちゃになっている今日この頃。
反転で色々でますよ。