嘘 吐 き 少 年



皆守甲太郎は、意外と厳しい。
何に厳しいのかというと、常識ってヤツに。
食事のマナーにも五月蝿い。特にカレーを食ってる時。

食事をしながら携帯(俺の場合はH.A.N.T)をいじるのなんて、俺にとっては普通のこと。パソコンで書類を打ちながら飯を食うなんて、日常茶飯事だ。昼間は普通の高校生やって、夜は《遺跡》に潜って、ちょっと寝て起きたら、また高校生やって。ハッキリ言って忙しい。けれども、本部は報告書の提出を待ってはくれない。食べる間も惜しんで仕事に励んでるのよ、俺は。

「行儀悪い」
「気にすんな」

耳にタコができるくらいに聞いた、皆守の言葉。
ぎろ、と睨んでくる目が鋭いけれど、九龍は知らん顔でH.A.N.Tのキーボードを打ち続ける。あともう少しで、メールが打ち終わる。そうしたら、送信ボタンを押すだけだ。

一口大にカットされたハンバーグが刺さったフォークを左手に、右手はキーボードの上。
手元を見ずに、九龍は器用に食事をとっていた。
今日の昼のメニューは、きのこのデミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグステーキと、海鮮ピラフ。鶏のささみとパプリカのサラダ、胡麻風味。卵と野菜のスープ。食後のデザートに栗とサツマイモのモンブラン。

1回の食事量の多さに、初めのうちは皆守も龍麻も驚いていたが、今では慣れた光景だ。
今までの生活の所為か、九龍は1回の食事をすると最高3日は食事抜きで行動する。
そのため、1回の食事量が半端ではないのだ。

フォークを一旦置いて、今度はスプーンでピラフをすくって口に運ぶ。
その間も、九龍の目はH.A.N.Tの画面を見たままで、早いスピードでスクロールする画面を見ている。
なので、ぽろぽろとご飯粒が零れているのに気付かない。
隣に座っていた龍麻は、それを見かねて黙っていた口を開いた。

「九龍、皆守が正しい」
「ハイ、今止めます、龍麻サン」

皆守に言われたら口答えするけれど、龍麻に言われたのならば話は別だ。
メール送信完了の画面が出る前に、さっさとH.A.N.Tを閉じる。
素直に言うことを聞いた九龍を、皆守がまだ睨んでいた。
恐らく、龍麻の前ではいい顔しやがって、とか思っているのだろう。
当たり前だ。だって、龍麻サンだし〜と思いながら、フォークに刺したハンバーグを口に入れる。

「誰からだ?」
「んあ? あぁ、リカ嬢から。明日一緒にアップルパイ作りましょうね、っていうお誘い」

っていうのは、嘘。
本当は《協会》に頼んだ調査の結果を知らせるメールだ。
内容にざっと目を通して、ちょっと気になった部分についてさらに詳細な調査を求めるメールを返す。今のうちに頼んでおけば、早ければ今夜のうちに返信されてくるだろう。

リカ嬢からの誘いがあったのは本当。
誘われたのは今日の朝の教室で直接、だったけど。

「楽しそうだね」
「あいかわらず仲良いな、お前ら」

自然につかれた嘘に、二人は気付かなかった。
へら、と笑って九龍は食事に専念することにした。

「美味しくできたら持って行くッスから、楽しみにしてて下さいね」
「あぁ。楽しみにしてる」
「一応、皆守にもやる。どーせ、龍麻サンと一緒にいるんだろ? やらないと龍麻サンに怒られるし、 仕 方 な く だけどやる」
「………………、九龍。お前、いちいち人の神経逆撫でしねぇと、気がすまねぇのか」
「おうよ。常時発動スキルだ」
「偉そうに言う前に、ピラフの人参を避けるな。ブロッコリーも避けるな。食え、ガキが」
「うるせぇ」
「ほら。頬にソースがついてる」
「う、」

備え付けの紙ナプキンを手にした龍麻が、九龍の顔を拭いた。
皆守のカレー皿と九龍のピラフを忙しく移動していたフォークが止まる。
意外と近い距離に見えた龍麻の顔に、九龍は魅入っていた。

睫毛なげー、肌きれー、アップに耐える顔ってこういう顔のこと。
幸せな気分を味わっているところに、いつも水をさす輩がいる。
今回も例に漏れず、嫌味を言ってくるカレー星人が一人。

「子供」
「とか言って、うらやましいクセに」




マミーズで団欒もどき。
行儀にはうるさい母・皆守と聞き分けのない息子・九龍。
龍麻は、母の愛人兼息子が憧れてる近所のお兄さん(笑)