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白 衣 の 彼 、 そ の 後
夷澤が深い眠りに入ったのを確認すると、そっと手を外す。
そして起こさないよう慎重にベッドがら離れ、静かにカーテンを閉めてベッドを囲う。
時計を確認すると、そろそろ3時間目の授業が終わる頃だ。
夷澤には職員会議と嘘をついたが、実際ルイリは別の仕事で急遽呼び出された。そこへサボり目的でやってきた龍麻に、留守番を頼んで行ったのだった。
彼女が戻るのはもうじきのはず。
4時間目もサボりだ。
龍麻に単位の心配をする必要はないが、もう一人の方はかなり深刻だろう。何しろ、現役高校生なのだから。
「さて……そこのベッドでサボっている、皆守甲太郎君。起きているんだろう?」
「………………」
龍麻はカーテンで仕切られた奥のベッドに向かう。
軽快な音を立ててカーテンが引かれて、真っ白いシーツに包まれたベッドが露わになった。
こんもりと膨らんだベッドからは、人が寝ていることが分かる。
夷澤が保健室に来た辺りから、起きていたことは気配から分かっていた。龍麻がソレに気付いていることに皆守も気付いているのだろう。
寝たふりをするのは無駄なのだが、返事をする様子はない。
「無言は肯定。そろそろ教室に戻れば?次、雛川センセの授業だろ」
「……お前は戻らねぇのか」
頭まですっぽりと布団に潜っているので、篭ってしまった声は聞き取り難い。
けれども、皆守が臍を曲げてしまったのが龍麻には分かった。
起きたくないと駄々をこねる子供を諭すように、皆守の肩の辺りを布団の上からぽんぽんと二度叩き、カーテンを開けたまま龍麻はその場を離れた。
龍麻が離れたことに気付いて、もそりと体を起こしてベッドの上に座る皆守。
机に乗った本を開いて椅子に腰掛けると、胸ポケットにたたんでいた眼鏡をかけ直す。起き上がった皆守に視線を向けると、さも当然というように答える。
「夷澤を一人残して行くわけにもいかないし、残るよ」
「………………」
「無言で訴えるの、止めようよ」
何も言わないが、龍麻が此処に残るのを皆守は面白く思っていない。
素直にそれが言えない性格の皆守だから、口に出して伝えることが出来ないのだ。そういう時はいつも、じっと目で訴えてくる。
まるでエサを強請る猫、もしくは相手の気を自分に向けたい時の猫。
にっこりと笑ったまま動く気配のない龍麻と、じっと睨むようにして龍麻を見る皆守。
無言のままどれくらいの時間が経ったか、先に動いたのは皆守だった。
「おーい、皆守。布団に潜るな、起きろ」
「嫌だ」
折角布団から這い出したというのに、もう一度布団に潜り込む。そして、今度もしっかりと頭まですっぽりと覆い隠してしまう。
しかも、わざとらしくバサバサと音を立てて、だ。
「嫌だときましたか」
「お前も戻るなら、戻る」
「道連れですか」
「………………」
再び無言を決め込む皆守。
開いていた本をぱたんと閉じる。どうも集中して読むことが出来ない。
彼がこんなにも臍を曲げているのは、さっき夷澤が寝付くまで側にいてあげたからだろうか。今まで皆守にそういう事をしてあげた覚えはないが、そんなことをしなくても皆守は気付けば勝手に寝てしまうのだから、するチャンスがないのだというのが龍麻の思うところだ。
して欲しいなら勝手に寝るな、と言いたい。
無理な話だとは思うが。
「夷澤に嫉妬しても仕方ないでしょうに」
「そんなんじゃねぇ」
「そう?……ふふっ、仕方ないなぁ」
自分でも随分と甘いなぁ、と思ってしまう。
昔からこういう素直になれないけれど独占欲は人一倍強いタイプに弱い。プラス、面倒見がいいタイプにも弱い。
無言で訴えてくる様が可愛いと思うし、コチラが気付くまでじっと待っているのが可愛い。
そして、目で痛いほど思いを伝えてくる。目は口ほどにものを言う、とはよく言ったものだ。
甘えたいと思うし、甘やかしてやりたいと思う。
立ちあがると、着ていた白衣を脱いで椅子の背にかける。室内の中央に据えられたソファにかけておいた学生服の上着に袖を通し、かけた眼鏡を外して胸ポケットに突っ込む。
そして、読んでいた本を片手に持つと、ベッドの上でイライラしている皆守の元へ行く。
布団を少しめくって皆守の顔を覗き込むと、龍麻は笑顔を見せる。
「ほら、行こう?」
「……あぁ」
相変わらず気に入らない顔をしているが、声の感じからは機嫌が上昇したことが窺える。
龍麻が歩き始めると、もそもそとベッドから下りてついてくるのが分かる。それを確認すると、龍麻は保健室の入り口の扉に向かって声をかけた。
「そういうことで、ルイリ。俺たちもう戻りますね」
「――――そうか。留守番、ご苦労」
皆守は気付いていなかったらしい。
龍麻への返事と共に扉が開かれると、そこには白衣にチャイナ服を着た保健室の主が立っていた。煙の出ていない煙管を片手で弄ぶようにして、瑞麗は中に入ってくる。
自然な動作で道を開けながら、龍麻の笑顔は変わらない。その後ろで、皆守は驚いている。
「いえいえ」
「…………いつの間に」
「君が駄々をこねて龍麻を困らせている間にな」
ふふっと笑って、瑞麗は手にした煙管で皆守を指す。
嫌なものでも見るように目を眇めた皆守は、アロマに火をつけるとそれを咥えてさっさと保健室から立ち去る。
瑞麗に軽く会釈をすると、それを追うように龍麻も保健室を後にした。
保健室から教室への廊下を二人で並んで歩きながら、皆守が思い出したように龍麻に尋ねた。
すると龍麻は、持っていたハードカバーの本の背を、リズムを刻むように爪で叩くのを止める。
「そういえば、なんで白衣なんか着てたんだ?」
「気分。一回着てみたかったんだよね」
その後、でした。私はどちらかというと皆守タイプ。甘えたい方ですね。
そのうち逆バージョン、甘える龍麻を書きたい。皆守勝ちの話ができると い い な 〜