25 人 の 騎 士 と お 姫 様 1 人 、 と



「……やる気ゼロなこの若者はこれから先大丈夫なのか?」

隣で睡眠を貪るくしゃくしゃヘアーのでかい猫を横目に、ため息を付く。
別に将来を心配している訳ではないのだが、不意に心配になった龍麻である。

寮までの道を案内してくれるかと思いきや、いきなり「眠い」と言い出して昼寝を始めた。
置いて行っても構わないのだが、寝ている人間を放置するのも気がひけるし、転校初日で道が分からないというのが、この場に留まっている大きな理由だ。
方向オンチではないのだが、一人でウロウロすると厄介なことに巻き込まれる可能性があるので、あまり一人で行動したくはない。
最近その所為で酷い目に合った(現状がそれの結果だ)ので、しばらく単独行動は控えておいたほうがよさそうだ。

この現状が昔の仲間にバレたら、今度こそ一人で出歩かせてもらえなくなりそうだ……と過保護な仲間たちを思うと、ため息が止まらない。
いつもの龍麻なら、仲間が何と言おうと自分が決めた事は最後まで貫くタイプだ。
心配する仲間を余所に、「大丈夫」と意気込んで(半ば逆ギレして)飛行機に乗った結果がコレだ。

「やはりこうなりましたか」と陰険陰陽師に呆れられ、「龍麻……」と黒ずくめの元暗殺者にため息をつかれ、「だからいつも言ってるだろう」と嫌味な現役忍者に説教を食らい、「どっか行く時は俺に言わなきゃだめだろ」と頭の弱い相棒に笑われ…………

考え始めると切りがない。
とにかくこの巻き込まれ体質についてだけは、返す言葉もない。
それ以外のことなら、誰であろうとも言いくるめる自信はあるのだけれど。

出来る事なら誰にも知られたくない。
いや、知られてはならない。この年で学生服が似合っているなんて、絶対バレたくない。

早めに事態に始末をつけなければ……いっそ黄龍で遺跡を吹き飛ばすか?
本気で悩む龍麻だった。

「……おい、さっきからお前、何ぶつぶつ言って……って、聞いてねぇし」




H.A.H.Tと呼ばれる、まだ使い慣れない機械からメールの着信を知らせる音楽が鳴る。
ちょっとたどたどしい動作でメールを開くと、「装備品を発送した」というお知らせメール。
どうでもいいけど、この偉そうな口調のメールが気に食わない。

「部屋に直接……?それとも、寮の窓口とかに届くのか?」

素手でも戦えるので、別に届かなくても困るような事はない。
しかし、箱の中身がマシンガンや爆弾だと一般人に知られるのは困るので、確実に受け取らなければならない。
とりあえず、待ってみるか……と考えていたら、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
転校してきたばかりの龍麻に、訪ねてくるような人物は思い当たらない。一体誰だ?と思いつつ扉を、開けた。


「―――――――ッ!!!???」
「やぁ、龍麻。久しぶりだね」


扉の前に、忍者。
しかも手には亀のマークが入ったダンボール。
色々とツッコミ所があるのだけれど、何よりその声に龍麻は聞き覚えがあった。

「な、なんで…………」
「君の狼狽する姿は初めて見たよ。この場所が分かったのは、壬生と御門さんが持つ情報を駆使して、1日で探し当てたよ?蓬莱寺君たちもすぐに帰国してきたし、捜索に着手するのが早かったのもあるね」

まさかこんなに早くバレるとは、思っていなかった。
というか、早すぎではないか?いや、それよりも忍者の格好というのは如何なものか。
壬生やら御門やら、一番聞きたくなかった名前が出なかったか?俺の聞き間違いか?

混乱している龍麻を部屋の中に押し込むと、翡翠は自分も中に入り扉を閉める。
ベッドの上にダンボールを置いて、まだ扉近くに立っている龍麻の方に体を向ける。
初めは驚いていた龍麻だが、落ち着いたのか扉に寄りかかって腕を組み、翡翠を見つめていた。さっきまでの動揺を微塵も感じさせず堂々とした態度が、龍麻らしい。

「だからあれほど反対したのに、また面倒なことに……」
「それは嫌というほど自分でも分かってるから、言わなくてもいい」
「言わないと分からないから言っているんだろう?」

無表情に見えるが、翡翠の目は鋭く明らかに怒っている。
それを目にした龍麻は、ふいっとそっぽを向いて、目を閉じ、両手で耳を塞いでいる。
翡翠が説教を始めようとするといつもこういう態度をとるのだが、普段の冷静な龍麻からこの子供っぽい姿は想像がつかなくて可愛い。
そう思ってしまうと、さきほどまで感じていた怒りが消えてしまうから不思議だ。やれやれ、という風に頭を振りながらため息をつくと、懐からある物を取り出して龍麻に差し出す。
今回ここに来た一番の目的は、龍麻にコレを渡すことと言っても過言ではない。
もちろん、頼まれた荷物を運ぶことも大切なのだが。

「ハイ」
「……………何、コレ」

差し出された手には、最新型の携帯電話。
シルバーのボディで折りたたむタイプの、ごく普通のもの。今CMでよく流れているものと同じ機種のようだ。
携帯だとは分かるのだが、渡される理由が分からない。


「携帯電話だよ。御門さんから、君に渡すようにと。

『貴方はすぐに行方知れずになるのですから、確実に繋がる連絡方法くらい残しておきなさい。貴方の消息が分からないだけで、気になって仕事にならない人がどれだけいると思ってるんですか』

という言伝も一緒にね。君の消息が消えたと聞いた時は心配したんだよ?」


嫌味っぽく聞こえるが、おそらく御門も心配してくれていたのだろう。
そして、この目の前にいる彼も。
知られたくなかったとはいえ、巻き込まれてから連絡の1本も入れなかったのは、やはりまずかったらしい。心配性の集まりだと、高校の時に嫌というほど分かっていたのだが。

「…………悪かった、心配かけて」
「分かってるなら、少しは僕らの言うことも聞いてくれ。君が自由なのは構わないけれど、危険な目に遭ってほしくないと皆心配してる」
「はぁ……過保護すぎなんだよ」

口では呆れたようなことを言っているが、龍麻の顔は笑っている。
いつまでも気にかけてくれる誰かがいるというのは、気恥ずかしいものがあるのだけれど、やはり嬉しいのだ。
それを感じ取り、翡翠の顔にも笑顔が見える。

「悪い虫がつかないようにって言われてるから、ちょくちょく様子見に来させてもらうよ」
「えっ……」
「壬生が凄い形相で探しまわっていたから、そのうち訪ねてくるかもしれない」
「うそ……」
「じゃあね」
「ちょっ、待てっ!翡翠!サラリと怖いことを言って行くな!!」

言うだけ言って、足音も立てずに龍麻の脇を通り、忍者が扉から部屋を出て行った。
慌てて後を追った龍麻だが、すでに姿はなく。
最後に言われた台詞を思い返すと、今後起こりうる事態をどうやって乗り越えるか、それにばかり思考がとられる。
そのため龍麻は背後に皆守が立っていることに気付いていない。
急に叫びながら廊下に飛び出してきた龍麻に驚きながら、眠そうな声で(もうすぐ寝る時間)尋ねてみるのだが。

「………………おい、一人で何騒いでんだよ?………って、また聞こえてねぇみたいだし」






最強女王様も、心を許した相手には子供っぽい所も見せるんです。
そのギャップがいい………のか?
いつもはバレても開き直るのですが、今回ばかりは心の準備ができていなくて開き直れなかった黄龍。




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