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自 信 喪 失 気 味 ハ ン タ ー と 興 味 津 々 女 子 高 生
初めて“学校生活”というものを体験している。
その感想は?と聞かれれば……厭きた、の一言に尽きる。
教える気があるのか聞きたくなるような教師の声。
一日にたくさんの、しかも関係性のないような教科をちょっとずつ教えられるのだから、頭の切替が大変だ。どうせなら、一つの教科を集中して教えたほうがよっぽど身に付くだろう、と九龍は思っていた。
5,6人のグループに分かれて座ることになっている理科室で、九龍は眠気を堪えながら教壇に立つ教師を眺めていた。右往左往を繰り返す教師を目で追っていると、催眠術の五円玉を思い出す。
何度目かの欠伸を堪え、一応黒板に書かれたことをノートに書き写した。
九龍は日本語を全くといっていいほど書けない。
いまさら一から日本語を学ぶ気は起きなかったので、英語でノートを埋めていた。
日本語が喋れて聞き取れて、理解できればそれでいい。
「――――のように、次亜塩素酸ナトリウム溶液は塩酸によって、気化します。その時に発生する塩素ガスは、有毒なので、くれぐれも――――」
同じような内容を、《宝探し屋》の強制期間に習ったような気がする。その時は化学や歴史、力学、語学を徹底的に教え込まれた。丸一日歴史詰めだった日もあった。
元々出来が良かった九龍なので、それほど大変というわけでもなかったが、辛かった。
一日机に縛りつけられるのは、厭きる。戦闘訓練の方が百倍もマシだった。
強制期間も終了し、一人前のハンターとして活動し始めたので、もう勉強詰めの日は来ないだろう。
そう思っていたのに、また机に縛られる日が来ようとは。
九龍は、ふぁ〜あと一際大きな欠伸をすると頬杖をついたまま目を閉じた。
校舎を出たのは夕方で、まだ空もオレンジ色をしていた時間帯だった。
けれども、すでに空は青黒くなってしまっている。寮の部屋には、すでに電気が灯っている部屋がいくつもあった。
なんでそれほど遠いわけでもないのに、こんなに時間かかってるんだろう……と九龍はぼんやりした頭で考えていた。
皆守の方は、途中で睡眠をとったことで満足したらしく、九龍よりもしっかりとした足取りで歩いている。
時折、ふらふらと揺れながら道を外れて行こうとする九龍の腕をつかんで、軌道を修正していた。その度に、何やってんだよという悪態をつきながら。
ただでさえ朝に弱いのに、睡眠の途中で叩き起こされれば、余計に寝起きはふらふらだ。
遅くなったのも九龍がこんなになったのも、道端で眠りに入った皆守の所為なのだが。
大人しく起きるのを待っている間、つい皆守と一緒になって眠ってしまった九龍も悪いだろう。
そのため、あまり強く文句を言えない九龍であった。
寝ぼけ状態の頭を激しく左右に振って、覚醒を促がす。
さっきよりもハッキリとしてきたなと思っていると、どこかから奇声が聞こえてきた。みぎゃァァァァ、とかなんとか。
今までに聞いたことのないような奇声に驚いた九龍だが、皆守の言った例えにも驚いた。なので、つい声に出して聞いてしまった。
「……ペンギンの首、絞めたことあんの?」
「あぁ?何言ってんだ、お前」
「いや、別に、何でも……」
何言ってんだはコッチの台詞なんだけどなぁ……。
皆守に見下ろされながら睨まれ、九龍は条件反射で目を反らす。
寮に帰る途中でいきなり眠り出す、変な奇声には意味不明な比喩表現使う。
高校生のクセにやたらと大人っぽいというか、色っぽいというか。ダルそうな雰囲気は、世の中を悟ったような諦めたような。つまり、高校生らしからぬ雰囲気を持っているということで。
しかも、授業が終わったあとで話しかけてきた時は、声をかけられるまで気配がなかった。
職業柄、気配には敏感な九龍にすら気付かせないほど、気配を殺せるのは常人ではない。
皆守の謎がさらに深まった……と九龍は思った。
部屋に帰って寝るといって戻った皆守の自室は、九龍とは一つ部屋を挟んだ場所だった。
間に挟まった部屋は空き部屋だと教えてくれた。
これなら普通じゃない音(銃を扱う時の金属音だとか、調合の際の……まぁ色々だ)がしても、聞こえないだろうと安心する。
部屋に入れば、届いたばかりの荷物が部屋の中央に置かれている。
ダンボールが2箱と、大きめのスポーツバッグが1つ。スポーツバッグには着替えがつめ込まれているので、それはそのまま部屋の隅にほおり投げる。
ダンボールの一つを開けると、中には
自分でもよく分からない歌を口ずさんで、もう一つのダンボールを開ける。
マシンガンとガスHG、銃弾、コンバットナイフなど、物騒なものが一杯に入っていた。
「タッタラッタラ〜ペンギンの泣き声なんでしょね〜っと。夕食は、コレでいいか」
カロリーはばっちりとれる携帯用の固形食品と、替えの銃弾とガスHGをアサルトベストにつめ込む。そして、ゼリー状の栄養補給ドリンクを口に咥えて飲みながら、先ほど届いた銃を分解して点検、再び組み立てる。
最後にM92FMAYAを取り出し、九龍はそれを愛しそうに眺めて、そっと銃身を撫でると点検を始める。
九龍がこの仕事に就くときに、知り合いの嫌味な輩がくれたものだ。
九龍にとって大切な人である“彼ら”とも繋がりの合った奴で、その“彼ら”から九龍がハンターとして一人前になったら渡すようにと言われていたらしい。
2丁でセットだったその銃の片方は、そいつが持っている。
いつになく優しげな笑みを浮かべて渡してくれた、その時の奴の顔はいつ思い出しても笑える。
点検を終えて、再び組み立てていると、銃に小さく刻み込まれた元の持ち主の名前を見つけた。ふっと暖かいものが胸を掠め、九龍はその名前に軽く口付けする。
そして、M92FMAYAを簡単にはバレないように服の下に仕舞い込んだ。
初日の今日は下見だけで済ませるつもりだが、行けるようなら探索を始めるつもりだ。
そのためにも食べておかないと、倒れる羽目になる。
エジプトでも倒れたし。あれは熱中症とかその類かもしれないけれど。
一応、用心の為に動けるだけのエネルギー補給は大切だろう。
組立て終わったマシンガンを片手に、ゴーグルを首にひっかけて。
H.A.N.Tもバッチリ持った。
エジプト帰りの九龍には、まだ日本の寒さが辛いのでパーカーを一枚着込んで。
準備は完璧。
九龍の部屋は2階の一番端にある。2階くらいの高さなら、気付かれることも怪我をすることなく出入りできる。
都合の良い場所で良かった。九龍は窓枠に手をつくと、ひらりと軽やかに部屋から飛び立った。
準備段階までは、順調だったんです。
もしかしたら、俺はトレジャーハンターの素質がないかもしれません。
好奇心に燃える瞳を輝かせて周囲をうろちょろする八千穂を見ながら、九龍は天を仰いだ。
今日一日付き合ってみて分かったのは、彼女を止めるのは自分には無理だということ。
こうと決めたら突っ走るタイプの八千穂に横槍を入れても、多分止まらないだろう。
何度目か分からないため息を付くと、八千穂から“不審な穴の発見”を聞く。
彼女と一緒にしゃがみ込んで、その穴を覗き込んだ、ら。
「おい」
「きゃッ!」
「……!って、うおッ!?」
思いっきり油断していた所にかけられた声に、九龍の体が馬鹿みたいに飛びあがる。
八千穂も同じだったらしく、驚きで飛びあがったと同時に九龍の体にぶつかった。
ぐらりと視界が揺れて、覗きこんでいた穴にそのまま頭から転げ落ちるか!?と思った。けれども、ぐいっと腕を引かれてそれを免れる。
腕を引いたのは皆守だった。
呆れたような驚いたような顔で、九龍を見ている。
なんかコイツには会った時からこんな顔ばっかさせてるな。
「……なにやってんだよ、お前」
「あ、あはは。つかんでくれてアリガト」
「ごめんね、葉佩クン。大丈夫?」
「ギリギリセーフって感じ。皆守君がつかんでくれたからね」
にかっと笑って八千穂を安心させていると、皆守がしゃがみ込んでいた九龍を立ちあがらせてくれた。
地面についた膝には土がついていた。それを皆守に指摘されて、九龍は軽く叩いてそれを掃う。
掃い終わって二人を見れば、何でこんなところにいるのかと理由を問いただされている八千穂がいた。
しかも、九龍に対してはイカれた格好というツッコミが。
貴方それで世界中の《宝探し屋》を敵に回しましたよ。
怪しげな墓守の爺さんも出てきたし、校舎の上では怪しいコートの男がコッチを見ていた。
自分は今日だけで一体何人にばれたんでしょうか、正体を。
先を歩く皆守と八千穂の背中を眺めながら、何度目かの空を見上げる。
日本のココからみる夜空は、エジプトの空とは違って星が見えない。どこまでも真っ黒だ。
満天の星空が恋しいなァと思う。
「おい、転校生。何やってんだ、早く来い」
空を見ているうちに足が止まっていたらしい。
随分先まで行っていた皆守と八千穂が、立ち止まって九龍を呼んでいる。
気付いて駆け出すと、二人はその場で九龍が来るのを待っていてくれた。
俺たちは、まだまだ始まったばかり。
これから、が始まる――――