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キ ズ モ ノ 、 ワ レ モ ノ 、 イ ト シ キ モ ノ
遺跡が崩壊してから数日経っても、九龍は探索を続けていた。
全て探索し終わったと思っていたのだが、訓練所なる新エリアを発見し、そこの探索調査をしているのだ。
冬休みに入ったので、ほとんどの生徒は帰省しているのだが、バディたちは寮に残っていた。
いつ九龍が立ち去るか分からない状況で、帰るのを躊躇っているのだろう。
それを知ってか知らずか、常と変わらぬ明るい様子の九龍。
今日も皆守を連れて、遺跡に潜るのであった。
「っっぁああああ!!」
化人との戦闘を終えて、九龍はバディの無事を確認すべく背後を振り返った。
皆守のことだから、よほどのことがない限り怪我をすることはないのだろうが、やはり気になる。その目で無事を確認しないと、不安で不安で。
だから、いつものように振り返って無事を確認しようとしたのだが……
「なんだよ」
急に叫んだ九龍に、皆守は驚いた。
別に自分は怪我をしているところはない、はず。
「甲ちゃんの麗しい顔にキズがぁぁ〜!!」
「はぁ!?」
皆守の右頬には、3センチほどの擦り傷があった。恐らく、避けた拍子に掠ったのだろう。
がばっと凄い勢いで、皆守の顔を掴んで引き寄せる。
皆守は成す術もなく、九龍のされるがままだ。
何の前触れもなくこの世の終わりみたいな叫び出したと思って心配したら、言った台詞が「顔にキズ」。しかも、「麗しい」ってなんだ、ウルワシイって。
色々とツッコミ所は満載だが、今の皆守は別のことに気を取られていた。
たとえ変なことを言い出しても、至近距離に見える顔は、自分が惚れてる恋人の顔。
このチャンスを逃したら男が廃る。
「……九龍」
「……………甲、ちゃん」
互いの名前を囁いて。
名前を囁きあったその唇が合わさるまで、あと少し……
というところで。
「大変だぁーーー!」
九龍の意味不明な叫びによって、ムードが無残に壊される。しかも、九龍は叫びながら全力疾走で走り去ってしまった。
「おい、九龍!?」
遺跡には、いまだ事態が理解できていない皆守が一人。
ガタンッ!
「…………扉は静かに開けろ、葉佩」
派手な音と一緒に生徒会室に現れたのは、数日前までは敵対していた《転校生》。
今となっては良き友人とも言える相手で、あの日から何度か、九龍はこの部屋に遊びに来ていた。毎回騒がしい登場の仕方をしていて、そんな九龍を溜息をしながら諌める阿門の姿が生徒会室の新しい風物詩になっていたりする。
九龍が、今までで最大の爆弾を投下することに、まだ誰も気付いていなかった。
「お父さん!娘さんをキズモノにしてしまいましたッ!責任とる意味も込めて、娘さんを俺にください!」
空気がピシッという音を立てて、固まったような気がする。
そんな中で、九龍の顔だけが真剣だ。
「……」
阿門、生徒会長の指定席の立派な黒革の椅子に座り、重厚な机に肘をついたままフリーズ。
「……」
千貫、阿門にミルクティーを差し出そうとしたまま止まる。
カップが滑り落ちて割れているのにも気付いていない。
「……」
双樹、部屋の中央にあるソファに腰掛けてネイルアートをしていたが、フリーズ。
「……」
神鳳、パソコンで文書作成をしていたが、驚いてエンターキーを押しっぱなし。
画面がどんどんスクロールされているのに気付かず。
「……」
夷澤、固まる。
「お母さんもお願いします!」
一番に回復したのは、双樹であった。
ネイルで綺麗に整えられた手を口元に持ち上げ、クスクスと笑う。
「あら……あたし、あんなやさぐれた娘の母親なんて嫌だわ」
「小姑のイジメにも耐えてみせます!」
「おや、ひどいですね」
「弟よ!今日から俺をお兄様と呼べ!」
「はぁ!?何言ってんスか、あんた!」
「おじいちゃんの面倒も、キチンと見ます!」
「…………」
「固まってるッスね、まだ」
双樹に続いて復活したのは、神鳳。続いて、夷澤。
この辺りのメンバーは、九龍の突拍子のない行動に慣れているので対応が早かった。
千貫に至っては、まだ固まったままだ。
阿門は、こめかみの辺りを指で押えていた。そして、いち早く復活した双樹に助けを求める。
「……双樹。どう扱えばいいんだ、コレは」
「そうですねェ。ふつつかな娘ですがよろしく頼む、とかがよろしいんじゃないですか?阿門様」
「娘はやらん!と机をひっくり返すのも一興かと」
「……神鳳」
面白がって悪乗りし始める双樹と神鳳を目に、阿門は深く深くため息をつく。
しかしその顔には、気をつけていなければ分からないほど小さな変化があった。
どう対応すればいいのか、と困惑した顔をしている。けれども、口元に浮かぶ微かな笑みから、この状況を楽しんでいるのが分かる。
クスクスと楽しそうに二人は笑っていた。
九龍のすることは見ていて楽しいし、それになにより、あの堅物の阿門を笑わせることができるのだ。無表情だった彼に、笑顔を与えてくれた九龍の存在が二人には嬉しかった。
遠くからバタバタという足音が近付いてきていた。
九龍の名前が呼ばれているような気がするが、本人は夷澤をからかって遊んでいる。
1分もしないうちに。
九龍が生徒会室に訪れたときと同じ位の轟音と共に、今度は「ふつつかな娘」の皆守甲太郎が現れた。全力疾走してきたらしく、息が切れている。ついでに、怒りのリミットも切れている。
「九龍ッ!!てめぇ、訳の分からねぇことを言いふらしてんじゃねぇ!」
九龍があまりにも大声で「娘さんを下さい」宣言をしたので、その声は生徒会室周辺に止まらず、男子寮まで聞こえていたらしい。
「あら、ふつつかな娘が来たわね」
「そのようですね」
「あんなのが姉っていうのも、嫌ッスね」
「お前らなぁ…………」
役員の言葉に、思わず皆守も脱力した。
それでも、失礼なことを言っている連中を睨むことは忘れていない。
阿門は傍観者の立場にいることに決めたらしく、口を出さなかった。
現れた皆守を嬉しそうに見ると、九龍は皆守の正面に立ち両手を取った。
皆守の両手を自分の両手で握り締めると、目をキラキラさせて。
「心配するな、甲!幸せにするから!」
キラキラと光を放つ瞳で、下から見上げられるという状況。
またしても皆守にとって美味しい状況なのだが……。
さっきからの発言といい、絶対にコイツ――九龍は、遊んでいる。
しかも、生徒会役員を巻き込んで。
「…………ッ、いい加減にふざけるのをやめねぇかッ!」
「うおッ!……開き直ったら容赦しなくなったな、甲」
ついに堪忍袋の緒が切れた皆守は、スキル・上段蹴りを発動させる。
遺跡から全力ダッシュで来た九龍は、完全防備。
発動の気配を察知して、持ち前の俊敏さでその蹴りを避けた。
肩から下げていたMR5R.A.Sを盾にして、連続して繰り出される蹴りをガードする。
「あらあら、結婚前の夫婦喧嘩かしら?」
「平和ですね」
「九龍さーん、流れ弾でその辺の物壊さないで下さいよ」
「おうともよ、まかせろ!弟よ!」
「そのネタから離れろッ!」
「……………、そろそろ厳十郎も復活してくれ」
「だいじょーぶ!いくらキズモノになっても、俺が大事なのは甲ちゃんだけだから」
「その減らず口を閉じろ……ッ!!」
今日も天香學園生徒会は賑やかです。
寝る前に思い付いた突発ネタ。ギャグです、ギャグのつもりです。
こんな皆守でも、攻めですよ?九龍は受けです。
正確には、九龍が嫁ですね(笑)