『戻ってくる、からさ。12月31日、甲ちゃんと出会った年の最後の日、この場所に。俺は、帰ってくる』
そう言い残して、《宝探し屋》はこの學園を飛び立って行った。



ビ リ ー ビ ン グ ・ ハ ー ト



本部に戻って事後処理をしなければならない、と言っていた。
このまま戻ってこないんじゃないかと、一瞬、不安に思ったのは皆守だけではなかった。
八千穂や取手それ以外のバディ達、皆が皆、同じ思いを抱いていた。
あの自由気侭なトレジャー・ハンターは2度と帰ってこないのではないか、と。
至極当然の不安だと思う。
九龍は風のように現れ、あっという間に自分たちに変化をもたらし、そして風のように消えた。
帰って来る、とは言ったものの。戻ってくる、とは言ったものの。
その言葉を信じた次の日には、退学手続きが成され、あの統一性のない部屋は綺麗に片付けられていた。まるで、そこに葉佩九龍という人間がいなかった、とでも言うように。

騙された、と怒った奴がいた。
帰ってこないの? と不安から涙を流す者がいた。
アイツらしい、と苦笑する者。無事でありますように、と祈る者。またひょっこり現れるだろう、と諦観にも似た笑いを浮かべる者。それが《宝探し屋》として、裏の世界に生きる者として当然のことだろう、と当たり前のように受け止めた者。
反応は様々だった。しばらくはそうして騒いでいた。
そんな中、皆守だけは、ただ静かに、仲間達の姿を見つめていた。

そして、12月31日。

誰もが諦めながらも、やっぱり心のどこかで諦められないようで、みんな寮に残った。
普段なら、年末年始の寮は閉められるのだが、生徒会の権限で今年だけは特別に開けられていた。

一人の《宝探し屋》を待つ為に。

いつも通りの寮生活を送りながら、時々、彼らは窓の外を見る。
校門が見える窓の側を通りかかると、足を止めてじっと眺めていた。
誰かとすれ違う度に、必ず「まだ、来てない」という会話が交された。

彼らは飽くことなく、同じことを繰り返し、時間は刻々と過ぎていった。
窓の外には、もう白い月が昇っている。

皆守は自室のベッドの上で仰向けに寝転がっていた。目は閉じていない。ぱちり、と開いている。
常に持っていたラベンダーの香りは、今は机の引出しの中に閉まってあった。
彼は、ただじっと、待っていた。
彼は、ただじっと、信じ続けていた。
疑うことなく、迷うことなく、信じていた。

自分勝手な考えと行動で、九龍を傷付けた自分が今できるのは、それしかないと思っていた。
九龍が何よりも、何があっても、自分を信じていたように、彼も九龍を信じようと決めた。
いつまでも受身な自分であったが、九龍はそれでもいいと言った。
すぐに変わろうと思っても、変われるものじゃない、と笑って言った。

ゆっくりでいい。俺は待ってる。だってずっと待っていたから、後少しくらい平気だよ。
ゆっくり《宝探し》しながら、待っててあげる。
ゆっくり追い付いておいで。手は引いてあげないけれど、皆守の、自分のその足で歩いておいで。

あぁ、自分の足で歩くさ。自力で立ちあがって、這い上がっていく。
そして、お前を捕まえる。捕まえて、二度と離さない、離れない。
だから。


「――――――ただいま、甲太郎」
「おかえり、九龍」


たとえ側に居なくても、お前の心は俺のものだという証明をくれ。



( 心が帰る場所は、常に君の所です )