僕らは世界の片隅で
「もし、ここに龍麻がいなかったら、俺たちはどうなってたんだろうな」
唐突に皆守がそんなことを言ってきたので、九龍はストローで飲んでいたアイスティー(ミルク入り)を、危うく吹き出すところだった。
なんとかそれを堪えて、自分の真向かいの席に座る皆守を見た。探るような目で見る九龍を尻目に、皆守は昨日の昼食でも食べていたカレーを、もくもくと食べている。
自分から質問しておいて、その態度かよ。
苛立つ気持ちを現わすように、大きな音を立ててグラスを置いた。
「は? 龍麻サンがいなかったら…なんて、考えられねぇ」
ちらっと目線を上げて見る皆守は、何が嬉しいのか、にやりと笑って、俺もだ、と同意の言葉を返した。
相変わらず、眠そうな声だけれど、悪くない声だと思う。
「馬鹿なこと聞くんじゃねぇ」
「そうだな」
皆守は時々、意味不明なことを聞いてくる。
何の脈絡も無く投げ掛けられる問いは、今のようにすぐに答えられるものから、そうでないものまで色々だ。
その度に、コイツは一体何が知りたいんだと思うけれども、あえて言及はしていない。
皆守の考えていることなど、自分に分かるわけがないと思っていたからだ。
どうせ今回も、いつもと同じで気紛れに聞いたのだろうと解釈すると、九龍はフォークで和風のきのこパスタをからめとった。
口まで運ぼうかというところで、それを皿に戻した。
気付いた皆守が目線を上げると、いつになく真面目な顔をした九龍がいた。
《墓地》に潜っている時に、つまり《宝探し屋》としての本性を現した時の、九龍が。
「……………もしも、」
いつも周りに愛を囁く甘い声はなく、発せられた声は氷のように冷たく。
紅い色を湛えた瞳は、獰猛な光を宿しているが、表情の消えた顔は人形のようで不気味。
有と無が入り混じったような、そんな顔。
「あの人がいなかったら。お前なんて気にも止めなかった、視界の端にすら写さなかった、その存在すら知る気はなかった」
真面目に答える気はなかったが、もし…と考えて出た答えがそれだった。
きっと、龍麻がいなかったら。
自分は探索だけに集中して(何しろ腕だけはいいから、この程度の遺跡は1ヶ月もあれば十分だ)他人と親密な関係を築こうとはしなかっただろう。
《執行委員》との戦いでも、容赦無く殺していた。
遺跡を血まみれにするくらい、残忍な手段も使った。
誰かに、たとえ少しでも、心を許す真似なんてしなかった。
「だろうな。俺もだ」
皆守が、眉を寄せて困ったような顔で笑った。
まるで以心伝心だ、そう思った。
***
昼食、マミーズにて。
他のバディに捕まった龍麻を、食べながら待つ。
要は似たもの同士な、九龍と皆守。
2005,10,12