鎮魂歌来襲
11.本物は今 ―― 2005.11.13
「…………、龍麻。やっと会えたね」
授業中、高校の保健室。その場所とは不釣合いな格好で、彼は入口に立っていた。
黒のロングコート、黒の革のパンツ、黒のブーツ。端整な顔をサングラスで隠した全身黒ずくめ男。怯むことなく、恥じることなく、堂々とその男・壬生紅葉は保健室に現れた。
保健室の主に頼まれて留守番をしていた龍麻は、突然現れた壬生に驚くこともなく、視線をチラリと上げただけだった。膝上で開かれたH.A.N.Tのキーボードを叩く音が保健室に響く。
ベッドの上に足を伸ばして座り、寒さ対策の為か、下半身には布団がかけられている。
異様に盛り上がっている気が、しなくもないが。
「よく捕まらなかったな。ここ、結構警備が厳しいって聞いていたんだが」
「これくらいの警備、僕には無いも同然だよ」
物音を立てずに壬生はベッドに近づく。
開いたH.A.N.Tを閉じると、平淡な女性のアナウンスが流れる。すでに聞き慣れてしまったと感じるのは、龍麻が天香学園に来て大分日が経ったことを示す。
H.A.N.Tに肘をついて手で顔を支え、側に立つ壬生の方を向いた。見上げる形をとっているが、龍麻の位置は常に上位にある。壬生は跪いて、騎士が姫にするように、龍麻の手を取って軽く口付ける。
目を細めて、桜色の唇はゆるく弧を描き、龍麻はその様子を咎めることなく見ていた。
「君がここに来た経緯は、大体聞いた。…………で、元凶の《宝探し屋》とやらは? 今どこにいるんだい?」
素早い動きで立ち上がった壬生の眉間には、一本の皺が刻まれていた。
いつものクールフェイスはどこにいったのか、今の壬生は苛立ちを隠そうとしていなかった。
龍麻第一主義の壬生にとって、龍麻がこの学園に縛られているのは腹立たしいことだった。
できることならさっさと連れ帰りたいところなのだが、肝心の龍麻が学園に残ると言っている。だから、何もできない。何もしない。
ならばせめて、その元凶の顔くらいは見ておこうと思ってやって来たのだ。
( この一件が片付いたら、それなりの報復はするかもしれない。あくまで、かもしれない、だが )
感情を露わにしている壬生を見て、珍しいと思いつつも、素直なのはいい傾向だ。
器用に片眉だけを上げて、龍麻はにやりと笑った。
H.A.N.Tを退かし、足にかかっている布団をべらりとめくる。
その下にいたモノを見た途端、壬生の顔から怒りが消え。
ただ、唖然と。茫然と。
「ほら、ここに」
「………………………………随分、懐いたんだね」
「羨ましいか?」
「かなり、ね」
( 膝の上でお休み中 )