「納豆ラーメンと納豆カレーというものがあるらしい」

始まりは九龍の言ったその一言だった。


実験と料理
09.ラーメンとカレー ―― 2006.02.16



学校から帰ってきた九龍は、いつにも増して楽しそうだった。
鼻歌を唄いながら皆守の部屋にやってきて、ベッドで寝ている皆守の首根っこを捕まえて自室に放り入れ、それから龍麻の部屋に行って、自分の部屋へ誘った。乱暴な扱いに苛立っていた皆守と、状況がよく分かっていない龍麻を前にして、九龍が言った台詞が冒頭のものだ。

そして、ちょっと待ってろと言い残して、九龍はキッチンに篭もってしまった。
皆守と龍麻はとりあえず大人しく部屋で待つことにした。
寝ている所を叩き起こされた皆守はベッドに横になり、龍麻は本棚から適当なものを選んでページを捲る。

トントントントン、という包丁とまな板がぶつかる軽快な音。
ふわりと香る甘い匂いと、スパイシーな匂い。
一体何を作っているのか気になった皆守が、寝転がったまま、キッチンにいる九龍に声をかける。

「ちょっと面白いこと聞いてさー、遠藤と志水に。で、ちょっと思い付いたんだよねー」

ハッキリしない答えが返ってきた。それ以上答える気はないらしい。

遠藤、志水というのは同じクラスのバスケ部員。

どうやら九龍は放課後、バスケ部に混じって遊んでいた時、納豆ラーメンと納豆カレーの話を部員たちから聞いたらしい。
皆守、龍麻、九龍ともに帰宅部に所属しているが、体を動かすことが好きな九龍は、時々運動部に混じって遊んでいた。九龍の持つ並外れた運動能力に運動部の連中は、なんでもっと早く転校してきてくれなかったんだ、と悔しそうに言っている。

それをたまたま耳にした皆守は、たとえ早くからこの学園に来ていても九龍は部活に入らないと思った。九龍が《宝探し屋》だからという理由からだけではない。人懐こそうに見えて彼は他人を受け入れていない。皆守はそう感じていた。九龍のプレイを見てから、余計にそれを確信した。バスケでもサッカーでも、どんな競技でも九龍のプレイはワンマンプレイだ。他人をあてにせず、己の力のみでゲームを運び、自分の都合の良いように人を操り、必要がない場合は切り捨てる。チームワークも何もない。それを簡単には気付かれないようにやってのけ、当然といった顔をするから、皆守は彼が嫌いだった。道化師のように完璧に欺いてみせる九龍は、なりきれない自分を嘲笑っている気がするからだ。精一杯の虚勢を、笑われている気がする。
龍麻も気付いているんだろうか、と思ってさりげなく皆守は聞いたことがある。案の定、龍麻も気付いていたらしく、けれども九龍を嫌っている様子はなかった。龍麻も龍麻で、掴みきれない奴だと皆守は思った。

ベッドに横になって物思いに耽っていると、どこかに行っていた睡魔が再び降りてくる。目を閉じている時間が多くなっていく。
背後が静かになったのに気付いて降り向くと、皆守が寝入ろうとしているところだった。
おやすみ、と小さく呟いて龍麻は本の続きに目を走らせた。

「よーし、 完 成 !」

嬉しそうな九龍の声がキッチンから響いてきた。
龍麻は本から顔を上げ、眠っていた皆守はダルそうにしながらもベッドから起き上がる。
少しして、両手に皿と器を持った九龍がウキウキしながら出てきた。

「プリンラーメンーとプリンカレー」

どん、とテーブルの上に置かれた、皿と器。
ふわふわと湯気が立ち昇る、作りたての料理。
料理上手な九龍が作るだけあって、とても美味しそうな匂いがする。
しかし。

「…………」
「…………」

黄色い物体がのっている。
黄色い物体がのっている、ラーメンと、カレー。

「ちなみにプリンも手作り」

プリンが熱さで少々とろけている。

「カレーに何しやがるッ!!」
「これは、さすがにちょっと……」

寝起き数分ながらも、皆守の怒りのボルテージはマックスだった。
その怒声は隣室だけではなく、寮内に響き渡りそうだ。
そんなに大声を出すものじゃない、といつもなら咎める龍麻も、さすがに今回は手が回らないようだ。
目の前に出された、世にも不思議な思いもつかないような食べ物の所為で。

「今度はプリン寿司とか、プリン担々麺、プリンオムレツとかやってみようと思ってんだけど」



それから1週間、九龍はキッチンに立つことを禁止された。