今日も仲良しな僕ら
12.寒くなってきた ―― 2005.11.03
「遅くなりましたぁ」
妙に間延びした声は、いかにも彼が寝起きであることを示していた。授業中だというのに何の遠慮もなく開けられたドアから入ってきたのは、色々な意味で有名な葉佩九龍だ。
「葉佩……今日で何連続の遅刻だ?」
「あー…、今日が木曜なんで……3連続くらい?だと思いますけど?」
へら、と気の抜けた笑いをしてやれば、教師の顔に諦めの色が浮かぶ。
「今週に入ってから毎日遅刻だろうが。せめて明日くらいは、ちゃんと来い」
「努力はします」
毎日のように注意しているのだが「我が道を行く」を地で行く九龍は、全く聞く耳を持たない。
せめてもの気休めといった感じで、教師は同じ台詞を繰り返しているが、その声はすでに諦めの境地に至っている。
結果、強く咎められることもなく、九龍は自分の席へと足を運ぶ。
教師はそれをしばらく眼で追っていたが、ため息とともに視線を教科書に移した。
席につくとすぐ、隣に座っている取手が九龍に声をかける。
その取手の前に座っている椎名もまた、そちらを向いた。
授業中なのだが、教師に注意をする気はないらしく、淡々と黒板に英文を書き連ねている。
「はっちゃん、このごろ遅刻が多いね。寝不足かい? 大丈夫?」
「もしかして毎晩行ってるんですの? 頑張るのはよろしいですけど、寝る時間を削りすぎるのはよくありませんの」
小さくて細い両手を頬に当てて、椎名は心配そうしている。
取手も取手で、いつも困惑気味の顔をさらに深めて、九龍を心配する。
自分よりも取手の方が体調が悪そうだ、と思いつつも、心配してくれる二人を安心させるように笑った。
「心配してくれてアリガト。でも、そういう理由じゃないから」
「?」
「なら、どうしてですの?」
それがねぇ、と肩を落としながら頬杖をつき、深刻な顔で眉間に皺を寄せる。
その真剣な顔を見て、取手と椎名はごくりと息を飲み込んで、九龍の言葉を待った。
「朝寒くてさぁ。ベッドから出たくないんだよ」
「あら、意外ですわ」
「寒いのが苦手なのかい?」
「暑いのは平気なんだけどね。寒いのは駄目。全然駄目。日本の冬がこんなに寒いなんて……調査不足だ」
ぐはぁ、と呻き声を上げて、机に突っ伏してダウン。
九龍の銀髪を撫でて椎名が慰めようとしたけれど、二人の口から出た言葉は、九龍にさらにショックを与えることになる。
「でも、まだまだ初冬だよ」
「これからもっと寒くなりますわ」
「マジ……?」
何かの冗談であって欲しいと思い、おそるおそる顔を上げて見れば、二人は揃って顔を縦に振った。つまり、冗談ではないということで。
それに九龍は衝撃を受け、再び机に突っ伏してしまった。
激しく落ち込んだ様子を受ける九龍の様子に、取手と椎名は顔を見合わせた。
そして、呻き声を上げて凹んでいる九龍をなんとか復活させようと、二人は一生懸命知恵を巡らせる。
「そうですわ。リカが今度、九サマのためにマフラーを編んで差し上げますの」
「音楽室は早くから暖房がついてるから……昼休みやサボりたい時にでもおいでよ。保健室が使えない時とかにでも」
「うわ、取っちとリカ嬢が天使に見える! アリガトー、マジで感謝しちゃう!」
倒れ込んだ時よりも勢いよく、九龍が復活した。
感激して涙でも流しそうなくらいに喜ぶ九龍に、取手も椎名もにっこりと笑顔を見せる。
椎名はパチン、と両手を合わせて口元に運び小首を傾げて、その代わり、と言葉を続けた。
「お礼は今度の昼食をご一緒する約束でよろしいですわ。リカと取手クンと九サマの3人で」
「じゃあ、龍麻サンも誘って4人で行こうか」
「それはとてもいい案ですわ」
「…………多分、皆守君も一緒になると思うけど」
取手の一言で、それまでハートが飛び散りそうなほど、楽しそうに喜んでいた九龍と椎名の動きが止まる。
あまりに同じタイミングで止まったので、見ている方がびっくりしてしまう。
そのまま見ていると、先に動いたのは九龍で、振り向いて親指をびしっと立て、取手に向かって差し出した。
「皆守は撒くから大丈夫だ、取っち」
「そうですわ。せっかくのお食事なのに、あの方がいては台無しですの」
それは何が何でも皆守が来るのを阻止してみせる、という九龍の決意の現れらしい。
椎名も椎名で、いつもの可愛らしい顔を不満げに歪めて、辛辣な言葉を言った。
ねー、と声を揃えて言いながら、九龍と椎名はお互いに顔を見合わせて笑っている。
意見が合って嬉しい二人はにこにこ笑う。仲の良さに微笑ましい光景だ。
二人を見て、取手は複雑な気持ちになりながらも、まあいいか、とすぐに考え直した。
「寒いですから、あったかいものを食べるとよろしいですわ」
「鍋って食べてみたいな」
「大人数で食べるとおいしいよ」
「いいねぇ! じゃあ今度、鍋パーティーしよう」
「素敵ですの。リカ、デザートにお菓子を作って差し上げますわ」
その後、九龍の席を中心にして3人は内緒話をするように、小さな声で打ち合わせを始める。
九龍の英語のノートには、近々行われるであろう鍋パーティーについての事柄が、たくさん書き込まれていった。
授業中ですよ(笑)
仲良しさん。椎名と取手と九龍。