君の隣で眠らせて。
Nio×Atobe


元旦はテニス部のメンバーで初詣に行った。
別に行きたくて行ったわけじゃなかったけれど、部長命令には逆らえない。どうせなら、跡部と行きたかったと思うけれど、あっちもあっちで部長だから、部員連中に引き連れられて初詣に行ったのだろう。

することもなかったので、ベッドの上でゴロゴロと。
読みかけの雑誌に目を通したり、音楽を聴いたり。
別に普通の休日と何の変わりもない一日を過ごしていた。

3日の今日も、昨日と同じように過ごそうかと考えていた。
部活が休みなのは、盆と正月くらいなので、何もしないで過ごすのもいいかもしれない。
10時過ぎに起きて着替えて、朝食兼昼食を自分で作って食べながら、ふと、指折り数えてみた。
跡部の顔を見てないのは、何日くらいだろう、と。

最後に会ったのは年末だった。確か、30日。一緒に出かけた。
それから、4日目。
会おうと思えば会えたのだけれど、彼はとても忙しかった。
普通の中学生よりも数倍も跡部は忙しいのだ。
跡部家の後継ぎである彼は、正月は家でのパーティーやら何やらで暇がないらしい。
30日に出かけた時、愚痴を零していた。

食べ終わった頃、インターフォンが来客を告げた。
玄関の扉を開けてると、そこには跡部が立っていた。
連絡もなく跡部が仁王の家に来ることは、珍しいことだった。
跡部は事前に必ず連絡をいれてから訪ねてくる。
それなのに、今日に限って何の前触れもなく跡部はやって来た。
久しぶりに会った彼は普通を装っていたが、目に見えて疲れている。

覇気がない。

俺様な態度は健在だったが、それに勢いがないのだ。
やって来た跡部は、出迎えた仁王の脇をさっさと通り抜けて仁王の部屋に行くと、ばたりとベッドに倒れ込んだまま動かなくなった。
ちょうど仁王の家族全員が出かけていたので、家には誰もいない。
それを知っていたのかどうかは知らないが、跡部の暴挙を見て咎める輩はいなかった。

一体何があったのやら。一言も喋らず自分の部屋に行ってしまった恋人を思い、ため息をつきながら、2人分のミルクティを淹れる。
両手にカップを持って部屋まで行き、開けっ放しの扉から自室に入った。

ローテーブルに2つ、カップを置く。
ベッドで横向きになって寝ている跡部に近付き、ベッドの端っこに仁王が座る。
ぎし、と軋んだ音がしたけれど、跡部は全く動かなかった。

ベッドの上に散らばる髪に触れ、何度も撫でる。
横顔にかかった髪を避けるように梳いてやると、跡部の整った顔が見えた。
目を閉じているので眠っているのだろう。
うっすらと空いた唇が誘っているようで、キスしたくなった。

顔を近付けてキスをしようとしたら、すっと伸びてきた手が仁王の口を塞ぐ。
起きていたとは思わなかったので、吃驚して跡部を見ると、鋭い眼光で睨んでいた。
両手を挙げて降参の意思を見せる。
口を塞いでいた手が離れ、跡部はもう一度眠ろうと横を向いて目を閉じた。

「……だいぶ疲れとるようじゃの」
「分かってんなら、話しかけんな。喋るだけでもエネルギー消費すんだよ」

伸ばした手足を引き寄せて寝る姿は、丸まって眠る猫のようだった。
暖房を弱めに設定してあるので、寒がりな跡部にとってこの部屋は寒いのかもしれない。
仁王は閉まってあったブランケットを取り出して、跡部の体にかけてやる。
すると跡部はブランケットの端っこを、ぎゅうっと縋るように握り締めた。

顔を隠すように潜ってしまったので、仁王に見えるのは柔らかそうな茶色い髪だけだ。
いつもと全然違う様子の跡部に、仁王はやれやれと苦笑する。
口には出さないけれど、きっと正月の間でかなり疲れたのだろう。
肉体的にも、精神的にも。

「……、お前の匂いがする」
「そりゃあ、俺のベッドじゃからのぅ」
「つかれた」
「そうか」

ベッドの空いた所に足を伸ばして座り、背をベッドヘッドに預ける。
仁王の片側には、丸まって眠る跡部がいる。
何かしても動かなかった跡部だったが、仁王が座ったのに気付くと、くるりと向きを変えて伸ばされた長い足にくっついた。
太腿に額をくっつけて、一度息を吐いて。
甘える跡部を仁王は優しい眼差しで見つめる。
目を閉じたままの跡部は、それに気付かない。
指先が白くなるくらいに握り締められたブランケットを見て、仁王が跡部の手にそっと触れる。宥めるように指を撫でて、包み込むように手を握る。

「ゆっくり休みんしゃい。跡部が寝て起きるまで、そばにおる」

せっかく淹れたミルクティが無駄になったけれど、自分にくっついて眠っている跡部の寝ている姿をみていると、とても幸せな気分になれた。

強がりで見栄っ張りな彼が、本音を出せる場所でありたいと思う。
疲れた彼が、羽を休める場所でありたいと思う。
遠慮なく甘えられる自分でありたいと思う。

跡部の頭を優しく撫でてやりながら、仁王はゆったりと過ぎる穏やかな時間を楽しんでいた。