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『今日の午前10時、いつもの公園で』 そういう内容のメールが届いたのは、年が明けて1時間も経っていない時間だった。 とりあえず『分かった』と一言返すと、『遅れんじゃねぇぞ』といつも通りの偉そうな台詞が返されてきた。 携帯の液晶画面を見て、思わず笑ってしまった。 年が明けても彼は変わらないのだ、と思うと何となく嬉しくなったのだ。 A Happy New Year !!
( Tezuka×Atobe )
吐き出した息は、あまりの寒さに白くなって空気に溶けた。 冷気に当てられた頬に刺すような痛みを感じる。 今年は例年にない大雪らしく、道路一面を雪が覆い、真っ白になっている。 さらにその上を人が歩いた所為で、踏み固まり、まるでスケートリンクのようになっている。 気を張って歩かないと滑って転びそうだ。 さすがに新年早々、転ぶようなことはしたくないので、慎重に足を進めた。 待ち合わせ場所の公園に近付くに連れて、手塚の顔が自然と綻んでいった。 公園に着いて、ぐるりと顔をめぐらしてみたが、人気がなかった。 10時近くということもあり、散歩をしている人くらいはいそうだと思っていたが、正月なので皆、家に篭もっているのだろうか。 まぁ、正月早々、公園なぞに来る物好きもいないのかもしれないが。 待ち人は、備え付けのベンチに座って待っていた。 黒のロングコートにグレイのマフラーを巻き、両手をポケットに突っ込んで、遠くを眺めている。 ときどき吹く冷たい風に、茶色の髪を揺らして、それでも寒さなんて感じさせない表情で其処に居た。 すっかり葉の落ちた木々と、うっすら雲がかかった灰色の空。所々に残る雪。積もった雪の上に残る、誰かの足跡。まるで1枚の絵画のようだ。書き手の感覚と美意識によって構成された、キャンバスの上で産み出される美。その中の登場人物として、跡部は最高といえるだろう。いつまでも見ていたい、そう思わせる光景、そう思わせる、存在。 跡部が、ポケットから左手を取り出し、コートの袖を捲って何かを見る。 それまで止まっていた跡部が動いたことで、彼を見ていた手塚の時間も動き出した。 このまま見つめ続けていたら、時間だけが経ってしまう。 遅れたら何か文句を言われそうだったので、手塚は止まっていた足を動かした。 一歩、一歩。 慎重に近付けば、ふっと綺麗な顔が手塚の方を向いた。 そして、不機嫌そうに眉根を寄せて言った。 「遅せぇよ」 「まだ2分前だ」 「俺の時計はもう10時だ」 「ずれてるのではないか?」 「それはテメェの方だろ」 怒っているような口調でも、跡部の声色はどこか嬉しそうだった。 あれだけ歪められていた柳眉は、すっかりいつもの通りに優美な弧を描き。 悪態をつく口には、うっすらと笑みが浮かんでいた。 手を伸ばせば触れれるくらいの距離まで近付くと、手塚は跡部の頬に触れた。 凍えるような冷気で、今までポケットの中で暖まっていた手が一気に冷やされていく。 けれども、触った跡部の頬の方がずっと冷たかった。 「……冷たいな」 すっと手を滑らせて、耳の後ろを指で撫で上げると、跡部の体がぴくりと震えた。 寒さで少し青白かった頬が朱色に染まった。 温度の違う指で触れられたから、ただでさえ敏感な跡部は余計に反応してしまったのだろう。 何か言いたげな顔をしている彼に笑顔を返すと、手塚は左手で腰を抱き寄せ、同じ高さにある耳に唇を寄せた。 ひんやりとした耳たぶに唇をくっつける。 あまりに冷たいものだから、きっとずっと前から来て、待っていてくれたのだろう。 手塚が跡部に会えるのを嬉しいと思っていたように、跡部も同じことを思っていたのかもしれない。 自分より早く、待ち合わせ場所に来るくらいに。 氷のように冷たかった跡部の耳も、手塚の温かい唇と同じ温度になる。 寒い中で冷えた二人の体も、くっついている箇所から、だんだんと温かさが生まれる。 こうしているだけで、新年早々、幸せな気分になれた。 目を閉じて、ゆったりとそれを味わっていると、焦れた跡部が若干控えめな声で叫んだ。 「ッ、手塚!」 「なんだ?」 「だ、ッから、その……公園だぞ、此処」 「誰もいない」 「誰か通るかもしれねぇだろ」 「その時はその時だ」 「開き直りやがった……」 文句は言っているものの、手塚を突き放すつもりはないらしい。 ひとつ、溜息をついてから、腕を手塚の背に回して、少しだけ体を相手に預けた。 手塚がしたように跡部も目を閉じると、お互いの存在だけに意識を集中させる。 人に懐かない猫に擦り寄られるのは、こういう感じだろうか。 お前だけが特別、と言われている感じがして嬉しかった。 そんなことを跡部に言ったら、速攻で否定されるか、鼻で笑われるか、どっちかだ。 柔らかい髪に頬擦りして。 閉じた瞼にキスをして。 晴れた夏の青空を詰め込んだ瞳が開くのを見る。 その瞳が完全に開かれて、自分を映し出す。 表情があまり豊かではない手塚は、唇の端を持ち上げるだけ、という最初限の動きで微笑む。 「明けましておめでとう。今年もよろしく頼む、跡部」 「…………あぁ、頼まれてやるよ」 ( 今年なんて言わずに、来年も、再来年も、ずっと ) 2005.01.01 |