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聞きたいのは、
( Tezuka×Atobe )「いい加減に機嫌を直せ」 「…………………………」 「跡部」 「……」 「せめて何が気に入らないのか、教えてくれないか」 「…………………………………………………………」 跡部が手塚の部屋に来てから、すでに1時間。 その間、跡部は一言も喋らなかった。 むすっと不機嫌な顔でベッドに座ったまま、出した茶にさえ手をつけない。 すっかり温くなってしまったそれは、机の上に寂しく乗せられたままだ。 一体、何が気に入らないというのだろう。 さきほどから彼の機嫌を取ろうと、柄にもなく下手に出ているというのに。 不機嫌な顔をしていても、跡部の顔は綺麗だし可愛いのだけれど、さすがに1時間は辛い。 疲れてため息をつけば、睨みつけてくるし、部屋を出ようとすれば、背後から置いて行くなというような視線を感じるし。身動きがとれない。 窓の外からは、しとしとと降り続ける雨の音。 静寂が支配する部屋には、雨の音だけが響く。 静けさを強調させる雨音は、嫌いではない。 雨は昨日の夜から降り続き、明日の夕方には晴れると天気予報でやっていた。 そんなことに気を飛ばしながらも、手塚の頭の大半を占めているのは、目の前の女王様の機嫌をどう浮上させるか、だ。 座っている跡部に近付いて、髪に触れようと手を伸ばしたら、ぱしっと振り払われた。 叩かれた痛みに顔を歪めると、跡部も傷付いたような表情をする。自分が思っているよりも強く叩いてしまったのだろう。 その表情を見せたのはほんの一瞬で、跡部は顔を背けた。何かに怒っていた彼は、固い表情をずっと崩さなかった。それが崩れた瞬間を手塚に見られるのが嫌なのだ。彼のプライドは誰よりも高いから。 「跡部」 振り払われた手で跡部の手を捕らえる。 跡部の手は冷たく、手塚の手は暖かい。 手の温度差と、己を呼ぶ声に反応して、跡部の肩がぴくりと跳ねる。 今度の接触は拒絶されなかった。どうやら先ほど叩いてしまったのを気にしているようだ。大人しくしているが、機嫌はまだ直っていない。手塚は隣に腰掛けると、覗き込むようにして跡部と視線を合わせようとした。 それに反して、跡部はさらに顔を背ける。 このまま追いかけるようにしても、跡部は逃げるだけだ。手を掴んでいない方の手を伸ばし、跡部の頬を捕らえる。 諦めた跡部は、それ以上逃げることを止めた。両の手で、秀麗な顔を包み込むように抑えて、蒼く輝く瞳を見つめる。 「跡部」 「……」 名前を呼べば、何かを言おうと跡部が口を開く。けれども、高いプライドがここまできて折れるのを許さない。 決まり悪そうに視線を泳がせる様も、拗ねて怒る姿も可愛いと思ってしまうくらい、跡部のすることは何でも許せる。それくらい、跡部に嵌っている。 そんな自分が可笑しくて、つい笑ってしまう。口元が緩むのが分かった。 表情の乏しい手塚が微笑む。 この距離で、この瞬間で笑うのは、狡いと自分でも思う。後で文句を言われるだろうが、その時はその時だ。跡部の為なら、多少の卑怯な手段をとっても全く気にならない。 案の定、跡部の頬が熱を持ち始め、ほんのり朱色に染まる。真ん丸に開いた蒼い瞳。 折れたな、と思う。 頬に添えた手を耳の後ろに滑らせ、そのまま後頭部まで滑らせる。 さらりとして柔らかな跡部の髪は、何度触っても飽きない手触りだ。 最後の一押しとばかりに、名前を呼べば、跡部の唇が何度か開閉を繰り返す。まだ何かが、彼の邪魔をしている。優しく髪を撫でて、額や目元に触れるだけのキスをして、跡部の言葉を促がしてやると、ようやく喋る気になったらしい。開いた唇が確かな音を奏でる。 「……、手塚」 やっと、声が聞けた。 ( 雨音よりも、お前の声が聞きたい ) 改題しました(20071211)
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