レイニーデイ
Jiro×Atobe


跡部が歩いて帰るらしい。
そう跡部が言った後のテニス部部室は大騒ぎだ。
珍しいこともあるもんだ、と宍戸がビックリして、だから今日は雨が降ってんじゃねぇ? と向日が笑って言った。天変地異の前触れや、って忍足が言ったら跡部の鋭い蹴りが飛んだ。倒れ込んだ忍足を心配する向日と鳳。宍戸の「激ダサ」の追い打ちに、忍足がさらに落ち込んだ。

俺はそれをソファに寝そべって聞いていた。
寝起きだったから、皆の会話が何だか別世界での会話に聞こえた。
雨が降っているから余計に。

ぎゃあぎゃあと騒いでいる皆をうざったそうに跡部は見ているけど、結構この状況を楽しんでいると思う。本当に嫌だったら、跡部は相手にしない。アウトオブ眼中、ってやつ。
長い髪を結び直しながら、宍戸が跡部に迎えが来れない理由を尋ねた。
シャツのボタンを止めていた手を休めて、跡部が答える。

いつも黒塗りの立派な車が送り迎えをしているのに、今日は色々あって迎えに来れず、仕方なく歩いて帰ることになった。

雨降ってるけど、傘あるん? と復活した忍足が言った。
無言で返す跡部。きっと傘ないんだ。
相傘でもいいなら入っていくか? って皆が言うけど、跡部は断る。
皆の家は跡部の家と方向が違う。その辺を気に掛けている。意外と、優しい跡部。

「なら、俺と帰ろーよ。跡部の家のソファ、気持ちいいから好き」

跡部は断らなかった。




鮮やかな青色の傘は、妹が誕生日にプレゼントしてくれたもの。
とても綺麗な青色をしているので、気に入って大切にしている。
今、その傘を差しているのは跡部。跡部の方が背が高いので、必然的にそうなったのだけれど、やっぱちょっとくやしい。

雨が降っているから、晴れの日より気温が低いのは当たり前。
でも、くっついている腕の部分は、いつもよりあったかい。

ポツポツ、と傘を弾く雨の音。
何気ない言葉を交す、俺と跡部の声。

雨と傘の所為で、街の喧騒が遠く別の世界の音のように聞こえている。
たくさんの音の中から、跡部の声だけ聞こうと俺の耳は一生懸命になるから、いつもより跡部の声に集中できた。俺の名前を呼ぶ跡部の声が、気持ちいい。
一つの傘に2人、というのは歩きにくいので、歩くペースが自然と遅くなる。
帰るのに時間がかかるけれど、嫌じゃなかった。むしろ、ずっとこのままでもいいくらいだ。

傘の中にふたり。
世界に、ふたり。

本当は跡部の家のソファじゃなくて、俺を呼ぶ跡部が好き。
腕がぶつかるくらい、近くにいてくれる跡部が好き。
それを知った、雨の日。




改題しました(20071211)