ある雨の日の他愛のない話
Oshitari×Atobe


昼過ぎから降り出した雨は、止む気配を見せず、むしろ時間が経つにしたがって雨脚は強くなっていく。これでは部活は休みだな、と判断すると、一気にやる気がなくなった。
午後の授業はサボりだ。そう決めた忍足が部室に来てみると、先客がいた。

本人が持ち込んだという豪華なソファに座って、常時持ち歩いている本を開いて、跡部景吾はそこにいた。
テニスバックと通学用鞄がソファの脇に置いてある。恐らく、帰る時間になったら、このまま帰るつもりなのだろう。なんて準備のいい。
忍足が部室に入った時、一度だけ向けられた視線は既に手もとの本に落ちている。何も言われなかったということは、自分がココにいても構わないということだろう。勝手に解釈して、跡部とは反対側の端っこに腰を下ろした。

上質なソファは適度な硬さでもって、忍足の体を受け止める。その心地よさは、ジローでなくても眠ってしまいそうなもの。雨の日の水っぽくて重たい空気は、忍足から思考する気力すらも奪って眠りへと誘う。ふぁ、と欠伸を一つ。肘掛けに乗せた手に頬を預け、横を見ると、読書にふける跡部の姿が目に入る。

雨の日の気だるげな空気を一蹴するかのように、跡部の姿は常に凛とある。
それは茹だるような真夏の日でも、凍えるような真冬の日でも変わらない。
嗚呼、なんてキレイな生き物。
黙っていれば、人形かと思ってしまうくらいに整った顔。
常に堂々としていて、品のあるその姿。
眩しいものを見る時のように細めた目で、忍足は跡部を見つめていた。

「景ちゃん、俺ヒマや」

雨の音だけが聞こえていた部室に、ポツリと落ちる忍足の声。
屋根を打つ雨の音に掻き消されるかと思ったが、跡部の耳はそれをキチンと捕らえていた。

「俺は別に暇じゃないぜ?侑ちゃん」
「うわ、侑ちゃんはやめてや。気色悪い」
「だったらお前もやめろ」
「かわええやん。景ちゃん」
「気色悪い」

ぺらり、とページがめくられる。
その音は、雨音に紛れて聞こえなかった。
自分と会話をしながらでも、跡部の目は文字を追っている。

「あー、ヒマや」
「そうか」

そう言って、跡部は唇の端を上げて笑う。
それは、機嫌がいいときに浮かべる笑顔と同じだった。

とりあえず、自分はココにいていいみたいだ。
つられて微笑むと、忍足は静かに目を閉じ、ゆっくりと眠りに落ちていった。


( 隣に君がいる、そんな幸せ )

2006,4,27
改題しました(20071211)