送り狼ですけど何か?
Nio×Atobe


部活が終わっても部長としての仕事は終わらない。部誌を書き、監督に頼まれていた明日の校内試合のメンバー表を作成。練習メニューで気になる点があったので、その部分の修正と新しい練習メニューを考える。

時間がかかりそうだったから、樺地や他のメンバーを先に帰らせた。最後まで駄々をこねたジローは、宍戸が諭してやったら何とか大人しく帰った。
部室には跡部ただ一人。備え付けのパソコン画面に向かって、跡部は頬杖をついている。
キーボードの横には、向日がくれたキャンディが2つ。ピンクとオレンジの2種類。疲れた時には甘い物だぜと言いながらくれたものだ。彼なりに自分を気遣ってくれているのだろう。

カツ、カツ、と2回。特に意味があるわけではないけれど、机を爪で叩いてリズムをとる。考え事をしていると、ついやってしまう跡部の癖だった。
しばらくそうして目を閉じ、作成したオーダーを思い起こしながら、脳内で試合をシミュレートする。試合終了、とりあえず良い所まではいけそうな仕上がりだ。後は実際にやってみて、どれだけの力を出せるか、だ。

忘れないように、キャンディを制服のポケットに入れる。

画面に表示されたメンバー表を最後にざっと見直してから、エンターキーを押す。
メール送信完了の画面が出るのを確認して、パソコンの電源を落とした。
時計の針は19時を差していた。



校門へ向かいながら、携帯で迎えを呼ぶ。
先週取り替えたこの携帯も、大分使い慣れてきた。発信履歴から家の電話番号を呼び出そうとしたら、名前を呼ばれた。まだ残っている生徒がいたのかと驚いたが、自分を呼んだ声に聞き間違いがなければ、この声の主は氷帝の生徒ではない。
むしろ、東京都の人間でもない。日本人ではあるが。

銀髪で怪しい方言を使うけれど、日本人で同い年。

立派な造りの校門に寄りかかって、銀髪の男が立っていた。
街灯のお陰で、その人物の姿がよく分かる。
跡部に向かって、軽く手を上げて、自己主張。
へら、と笑う顔は、いつも何か企み、いつも全てを見透かしている。
仁王雅治。神奈川にある立海大附属中学校の3年、テニス部所属。詐欺師。

今年の春から、跡部景吾のストーカーもどき。
というのは冗談で。
今年の春から、跡部景吾とはコイビト同士。

「…………何しに来た」
「遅かったのう、部長サン」
「テメェの部長になった覚えはねぇ」
「機嫌悪いみたいやの」

自分の方に歩いてくる跡部を見て、仁王はさらに笑みを深める。
手を伸ばせば掴めるくらいの距離まで、二人は近付くけれど、お互いになんの動きも見せない。
仁王はポケットに手を突っ込んで、穴が開くんじゃないかというくらい跡部を見る。
不躾なその視線に、跡部の眉間に一本の皺。
理由もなく見られるのは、腹立たしい。電車に乗っていても、街を歩いていても。見目麗しい跡部には自然と人の注目が集まってしまう。見ている方は良いかもしれないが、見られている方としてはムカツクことこの上ない。
喧嘩腰になる声。跡部のイラつきは、隠される事なく声で表わされていた。

「わざわざ何しに来たんだよ?」
「跡部の顔が見とうなって」

何言ってんだ?お前と聞き返す間もなく、跡部の手から携帯が取り上げられる。
そうして、仁王はその携帯の電源を切ってしまう。
パチン、と閉じられた携帯は、そのまま制服のポケットの中へ。
茫然と仁王のすることを見ていた跡部の手を、ぐいっと引っ張って歩き出した。

「たまには歩いて帰るのもいいじゃろ?」
「おいっ……!お前、勝手に」

びっくりしている跡部だったが、やっと我に返ったのか、繋がれた手を外そうとする。
すると、繋がれた手に力が込められて、その力の強さに跡部は抵抗するのを止めた。
今度は疑問の形ではなく、断定の形で仁王は言った。

「ほら、行くぜよ。俺が送ってく」



手は繋いだままで、二人は帰り道を歩いていた。
今時、中学生男子が手を繋いで歩いていれば不審に思われる。けれど、幸か不幸か、辺りには人一人見当たらなかった。住宅街を歩いている所為もあるかもしれない。時間帯がちょうど夕食時というのも理由だろう。

引っ張られるままについて来たが、跡部はふと思った。

「…………………………仁王。お前はどこまで俺を送って行くつもりだ?」
「跡部の部屋まで」

即答。

「本当なら、顔見て帰るつもりじゃったんけど。やっぱ足りんかった」

ちょっと恥ずかしそうに言う顔が、年相応に見えた。
いつもの他人を欺くための顔じゃなくて、素の顔だった。
わざわざ自分を偽っている人間が、自分の前では素の自分を曝け出してくれる。それに気付いたら、湧きあがるのは嬉しさと恥ずかしさだった。跡部は自分の感情を悟られないようにと思って、わざと突き放すような冷たいことを言った。

「馬鹿じゃねぇの」
「ええよ、馬鹿で」

跡部馬鹿じゃけんの、と言って仁王は笑った。
酷く嬉しそうだったから、何の文句も言えなかった。

仁王の手の冷たさを感じながら、手の冷たい奴は心が温かいんだってさと言った誰かの言葉を思い出した。



( ポケットの中にある、ちょうど2個のキャンディにさえ、恥ずかしさを感じる )




君と僕とで、1個ずつ。

恋愛に関して意外と可愛い仁王だといい。跡部にべた惚れで。
そして振り回され気味の跡部様。
腹の探り合いをする関係も好きですけど。今度書いてみたい。
2006.02.17