09. 秘めて隠して、押し殺して
Nio×Atobe


いつもは何だかんだと敵視しているけれど、実際、跡部景吾を目の前にして邪険にできる人間などいるのだろうか。
現に今、敵地である立海大附属中のテニス部レギュラー陣は跡部の周りに群がっている。
部活の最中だというのに、あの、真田でさえ。

練習試合の申し込みをする為に、跡部は立海を訪ねてきていた。
話し合いが終わり、立海の監督に誘われるまま、練習を見学しにコートに現れたのだ。

現れた跡部を一番先に見つけたのは、仁王だった。

「まさか、なんで」と吃驚している仁王を不思議に思った切原が、彼の視線の先を辿って見れば、フェンスの向こうでコートを見ている跡部の姿。
切原が大声で跡部の名前を呼んでしまい、コート内にいたレギュラー陣全員に跡部の存在が知れ渡ってしまったのだ。



そして、今に至る。
ベンチに座る跡部を中心として、右隣を切原、左隣を丸井が座っている。
その後ろにジャッカルと柳が立ち、跡部の前には、真田と柳生と部長の幸村。
それぞれが思うままに話かけるので、跡部は少々押され気味だった。
それでも、話しかけられたことには律儀に答えている。

見た目の美しさとプライドの高さ、それと偉そうな態度から取っ付きにくい印象を与える跡部だが、意外と面倒見がいい。年下相手には特に顕著にそれは現れ、初めは跡部を嫌っていた切原も、今ではすっかり懐きまくっている。丸井も同じで。
知的で話題も豊富な跡部は、柳生や柳、幸村にとってはいい喋り相手。
テニスプレーヤーとしても高い能力を誇るので、真田にとってはいい練習相手。
ジャッカルにとっては、跡部は相談相手兼理解者。小動物(切原と丸井のことだ)の世話役という苦労を分かってもらえるのは、今のところ跡部だけらしい。

面白くないのぅ。

離れた場所で、仁王はドリンクのストローを口に咥える。
誰にも言っていないが、仁王と跡部はそれなりに深い付き合いだ。
体の関係、とまではいかないけれど、キスくらいはする。
好きだ、とも言う。言ってもらったこともある。
つまり、恋人。

誰にも言っていないのは、恥ずかしさとか世間体を考えて、というわけではない。
仁王は秘密主義者なので言わないだけで、それを知っている跡部も言わないだけだ。

それに、付き合っていると公言すれば、今以上に邪魔が増えるだろう。
氷帝、立海だけでなく、青学や不動峰の連中にも好かれている跡部。
つまらない嫉妬から、二人の邪魔をされるのは面倒だ。
数が多いから、余計に。だから黙っているのだけれど、それはそれで鬱憤が溜まる。

面白くない。

何度も何度も、頭の中を駆け巡るのは同じ言葉だった。
幸村が、真田が、柳が、柳生が、ジャッカルが、丸井が、切原が。
跡部に近付くだけでイライラした。
そして、自分の苛立ちに気付かない跡部にもイライラした。

面白くない。

だん、とドリンクボトルをベンチに叩き付けた。
どうせ今日はもう、このまま部活にならないだろう。
ならさっさと帰るに限る。これ以上、不快な思いになりたくなかった。
ここにいると、いつも冷静でペースを乱さない自分が崩されていくようで、嫌だった。

コートの出口に向かって足早に歩く。
すると、後を追うように背後から跡部の声が聞こえてきた。

「ッ、切原! 離せ!」

慌てたように叫ぶ声に、反射的に降り返ってしまった。
振り返るんじゃなかったと、後悔したがもう遅い。
目に映ったのは、切原に抱き付かれている跡部の姿。

仁王の目は、しっかりとその光景を目撃した。
見開かれた瞳に怒りが見えたけれど、一瞬で消え失せ、後に残ったのは氷のように覚めた瞳だけ。
踵を返して、止めていた足を無理矢理動かした。

「いいじゃないッスか、少しくらい」
「赤也、ずりぃぞ! 俺もやってやる!」
「テメェまでやらなくていい! 離れろ!」
「おやおや。あいかわらず、困った奴らだなぁ」
「幸村、止めなくてもいいのだろうか?」
「まぁ、いいんじゃないか? 赤也たちも楽しそうだしな」

後ろから聞こえてくる楽しそうな声も、跡部の声も、全て頭から叩き出す。
怒りで沸騰しそうになる思考を、押えつけて。

面白くない、イライラする、腹がたつ。

コートから出て、水道に向かう。
蛇口を思いきり捻ると、勢いよく水が出て、それに頭を突っ込む。
冷えた水が興奮した思考と頭を急速に冷やしていく。
水を含んで重くなった髪が、頬や首に張り付いて気持ち悪い。
そんなちょっとしたことが、今の自分は気に障ってしまう。


素直になれない自分が、一番嫌いで一番イライラする。