05. 少しだけ速まる鼓動
Tezuka×Atobe


美しいものを手に入れたい、と思うのは人間の素直な欲求の一つだと思う。
彼・跡部景吾を見た時、純粋に「手に入れたい」と思った。
本当に同じ人間だろうか、と疑ってしまった。
それほどまでに、彼は美しかった。
空の色を閉じ込めたような蒼い瞳と、眩しいまでの白い肌。スラリと伸びた手足。
髪の先から爪の先まで、完璧ともいえる造りをしていた。

けれど、そのあまりの完璧さ故に、手に入れる所か触れることさえ躊躇われた。

「テメェが、手塚国光か。青学の次期部長候補」
「……あぁ。お前は、」
「跡部景吾だ。氷帝学園の2年」
「知っている。次期部長候補らしいな」
「候補じゃねぇよ。もうすでに決定事項だ」

見た目だけじゃなく、そのプライドの高さも一級品らしかった。
嗚呼、彼はどこまでもかけ離れた存在なのだろうか。

「強いらしいな。テメェは」
「まぁな」
「くくくっ、普通はそこで肯定しねぇだろ。意外と自信家なんだな」
「意外と?」

自分と彼は初対面のはずだ。
ちょっと会って話しただけで、相手のことが分かるはずがない。
そういえば、彼は相手を見抜く「眼力」がずば抜けていると聞いた。

「自分を押えて、控えめに生きてそうに見えたからな。滅多に本気を出さないだろ?」
「…………」
「図星か?」
「…………………違う」

図星だから、驚いた。
でもそれを大人しく認めるのが嫌だったので(今思えば子供だった)否定した。
彼はそんな俺を見て、可笑しそうに笑った。
手の甲で口元を押えて、笑いを堪えるようにして笑った。

「まぁいいさ」
「…………」
「お前の試合を見せてもらった。そして、決めた」

風が吹いた。
木々の葉っぱが擦れあって、サァッという乾いた音を鳴らした。
細くサラサラとした彼の髪が、風に煽られて乱れた。
その風に舞う髪に目を奪われていた。
ぼうっと見ていた視線を彼の顔に戻した。
彼の唇は優美な弧を描き、蒼い瞳が真っ直ぐに自分を見つめてくる。

息が止まるかと思った。
なんて、綺麗な、帝王の笑み。


「お前を倒すのは俺だ。本気を出させるのも、お前がライバルだと思うのも、俺だけだ」


自信たっぷりに笑う彼の姿が、カラダに焼き付いた。
心臓の音が耳元で鳴り響いて、でも、それすら気にならないくらいに。
いつもより早い鼓動。その雑音をかき消すように届く、美声。


「覚えておけ」


目の前の存在に、全てを支配された瞬間だった。