03. 傍にいるだけで満足できたら
Jiro×Atobe


だんだん、俺は欲深くなっていく。
驚くくらいに。恐いくらいに。
好きだと思うほど、好きだと伝えるほど、俺は跡部が欲しくなる。



試合をしている跡部は、カッコ良くて綺麗で強くて、ずっと見ていたいって思う。
走った時に揺れ動く髪。ボールを空に放った時の手の形。コートの上で華麗に試合を運ぶ姿。
氷帝の部長、という代名詞がなくても、跡部は十分に有名なテニスプレイヤーだ。ジュニア選抜にも選ばれた事のある、全国区のプレーヤー。沢山の人から注目され、目標とされている。
自分のことじゃないけれど、嬉しい。跡部が凄いって認められると、自分のことみたいに嬉しくなる。さすが跡部、と俺が言う度に、跡部は照れくさそうに笑うから。( その時の顔がスッゲーかわいい )

跡部の試合を見ているのが好きだった。
観客がどよめく度に、跡部ってスゲーだろって大声で自慢したくなる。

けれど、それと同時に。
黒く身勝手な感情が、ふつふつと湧きあがってくる。

なんで跡部と試合してるのが俺じゃないの?
なんで跡部の前に立っているのが俺じゃないの?
なんで跡部はそんなに楽しそうに俺じゃない誰かを見るの?
俺以外、見ないでよ。

跡部は楽しそうに見るんだ、試合の相手を。
心底テニスが好きな跡部だから、試合をするのが嬉しくてしょうがないんだ。
俺もそうだから分かる。テニスをするのはすっげー楽しくて、それ以外見えなくなって、テニスで頭が一杯になる。俺はやっぱりテニスが好きなんだって思う瞬間だ。
だからきっと、跡部もおんなじなんだ。跡部もテニスが好きだから。

試合をしている時、跡部の意識の全ては倒すべき相手に向かっていて。
俺はそこに存在していない。跡部の中に俺がいない。

それが、許せなくなってきている。
( 勝手だ、こんな風に思うの )



普段から跡部の目は俺じゃない誰かを見る。忍足や向日、宍戸とか。
それは別に普通、というか当たり前のこと。見て当たり前。
日常生活では、跡部が誰と話していても気にならないんだけれど、試合となると別だ。

忍足と試合をしている跡部を見ると苛立つ。
宍戸と試合をしている跡部を見ると苛立つ。
向日と、滝と、鳳と、日吉と……。

テニスが嫌いになりそうで恐い。
みんなが嫌いになりそうで恐い。
跡部を、  になりそうで恐い。

それだけは嫌だから、俺は逃げることにした。
目を閉じて、耳を閉じて、感覚を世界から切り離す。
そして、俺は夢を見る。

好きだよって言ったら、俺もだって笑って言ってくれるようになった。
桜が綺麗に咲いていた4月。俺と跡部が3年生になった、春。
一緒にいるだけで良かった、あの頃。
それだけで満足できたはずだった、あの頃の夢を。



「ジローって、跡部の試合はいっつも寝てるよな」

向日が何気なく言った言葉に、その場にいた全員が何言ってんだって顔をする。
跡部の試合の時だけじゃないだろ、って宍戸が言う。
起きてる方が珍しいやつやからな、っていう声は忍足だ。
皆に馬鹿にされて怒っている向日を宥めながら、鳳がそうですねと忍足の言葉に頷いている。

俺は硬いベンチの上に仰向けに転がって、その会話を聞く。
眩しい太陽に目を細めながら、皆の方を見た。
話をしている皆から少し離れた所に跡部がいる。

跡部と視線が合う。けれども、それはすぐに逸らされた。

一瞬だけ、跡部が見せた傷付いた顔に、俺は気付かないフリをした。
( 鋭い跡部だから、俺の様子がおかしいことに気付いてるだろう。でも、それを直接俺に聞くことができないんだ。やさしーから。俺が聞かれたくないって思ってるのを分かってるから。不審がるだけで、何も言わない )


太陽がまぶしいよ。跡部。
目を開けてられない。

だから、俺は目を閉じるんだ。
そして、俺は夢を見る。



( 君を  になるのは、いやだから )